空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その三十五
ぐうぅぅぅぅ~
真魚にとっては、聞き慣れた音。
「腹へった~」
「静かだと思ったら、そういうことか…」
真魚が笑っている。
「ん!ん~!」
嵐が急に立ち上がり、鼻を立てた。
「お待たせ~」
昴の声がした。
「おお!おお!」
嵐の瞳が、全開になっている。
潤んでいる様にさえ見える。
昴と舞衣、それに昴の母。
それぞれが器を持っている。
その後ろには、昴の弟まで付いていた。
嵐は、昴の足下で見上げた。
「お主も、女だったのだな…」
「な、何言っているのよ!」
昴は、嵐の言葉に照れた。
髪を後ろで束ね、女の着物に着替えている。
男のなりをした昴は、そこにはいなかった。
「ほう…」
真魚までその姿に見とれている。
「そんなに、じろじろ見ないでよ…」
昴の頬は、真っ赤になっていた。
「儂らにとってはいつもの昴じゃがのう…」
「客人には違うようじゃ…」
昴の父、羅矛が口を開いた。
「さぁ、どうぞお召し上がりください!」
昴の母が、嵐に声を掛けた。
「いいのか!」
嵐が、床に置かれた器に走った。
「食った~」
嵐が、仰向けに寝転んでいる。
嵐は満足したようである。
「本当に神様なのか?」
「俺、何回往復したか分からないよ…」
嵐が満足するまで食べる。
弟がその文句を、昴に言っている。
「能亜、あのお姿は仮の姿…」
「見た目で判断しては駄目…」
昴は、嵐の本当の姿を知っている。
それを見た者は、皆同じ事を言うだろう。
「見た目って、ただのい…」
そこまで言いかけた能亜の口を、昴が手で塞いだ。
昴が能亜を睨んでいる。
「それだけは絶対言っては駄目!」
昴が人差し指を、自らの口に当てた。
「昴、聞き分けの良い弟じゃのう…」
嵐が起き上がって、二人を見ていた。
「舞衣はどこじゃ…」
「あそこで佐伯様と…」
昴が舞衣を指さした。
すぐに舞衣が昴の方を見た。
「舞衣、嵐様が呼んでる」
舞衣が真魚と目を合わし、立ち上がった。
「何か、ご用でしょうか?」
舞衣は嵐の前でそう言った。
続く…