空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その三十四
「神の血の鍵は…昴か…」
真魚がつぶやいた。
「そして…」
「舞衣は、古の力の鍵になった…」
お珠が言う。
「その力…俺が見た所、あと二つ…」
「昴の剣と、あと一つは持っている何かだ…」
真魚は、既にそれに気付いていた。
「さすがに…隅には置けませぬな…」
お珠が笑っている。
「だが、奴らが探しているものは、それでは無い…」
真魚がお玉に言った。
「恐らく、これのことじゃ…」
お珠が、懐から何かを出して見せた。
右の手の平の上。
平たく丸い翡翠のような石。
そこに、見たことの無い紋章が描かれている。
向き合う二頭の獣。
見慣れぬ文字。
「ほう…」
真魚が笑みを浮かべた。
その石から溢れる波動。
それは、ただの石ではない事を示している。
「これが、王の証だ…」
「これが、古の王である証だ…」
お珠がそう言うと、また懐に入れた。
よほど大切な物であるのだろう。
「本当に…あったのか…」
真魚は驚いている。
それが、王の証であるならば、
帝は別の系統であることを示している。
何処かで、何かが、すり替わっている。
そういうことになる。
「その事を、どうしてあの男が知っている…」
真魚が、その疑問を投げかけた。
帝が知れば、奪いに来る。
それは分かっていた筈だ。
「この村から…逃れた者が一人だけいる…」
お珠が真魚に答えた。
真魚の口元に、笑みが浮かぶ。
「わざと…逃がしたのか…」
真魚がつぶやいた。
帝が動けば、村に人が攻めてくる。
新しい血が、向こうからやってくる。
「その中に、目当ての者がいるとは限らぬ…」
「そう思っておるじゃろ…」
お玉が笑っている。
『黒き闇迫り、神の血を穢す時、
光現れ、古の力が開かれる。
新たなる神の地が、人の導きとなろう…』
「これは運命なのだ…」
「選ばれし者は…惹かれ合う…」
「その者は、もう来ているはずじゃ…」
お珠が、真魚を見ている。
「俺の当ては、外れたようだ…」
真魚が笑っている。
「だが、それでいい…」
真魚は、何かを掴んでいた。
続く…