空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その三十一
阿瑠は、前鬼と後鬼と一緒に、元の村を歩いていた。
「おかしいとは、思わぬか…」
後鬼が、前鬼に言った。
「まるで、生きているようじゃな…」
前鬼が、後鬼に言った。
「人がいなくなると、村は死ぬ…」
「村は自然に帰ろうとする…」
「普通なら…な…」
「だが、これはどうじゃ…」
後鬼はそう言いながら、何かを考えている。
「そう言えば…そうだ…」
阿瑠も同じように感じていた。
「ん!」
後鬼が何かに気がついた。
「おぉ!」
その後鬼の様子を見て、前鬼もそれを感じた様だ。
「何じゃ…この波動…」
「なぜ、今まで気付かなかったのじゃ…」
後鬼が、その方向を見ている。
村の中心に、大きな屋根が見える。
「確かめて見るか…」
前鬼が歩き始めた。
「俺には…さっぱり分からぬ…」
阿瑠が、仕方なく後を追った。
そこは家では無く、何かの場の様であった。
六本の太い柱に支えられた、藁吹きの屋根。
板張りの簡素な壁と、土のままの床。
その中央に丸いものが見えた。
「何じゃ…あれは…」
後鬼が近づいていく。
波動は間違い無く、そのものから出ている。
「ほう…」
前鬼が、それを見るなり声を上げた。
「式盤か…?」
後鬼にはそう見えた。
「いや…少し違うようじゃな…」
前鬼が繁々と、それを見ている。
見た目は、占いに使う式盤の様である。
だが、描かれている文字や模様が少し違う。
「陰と陽…表と裏…」
後鬼がその波動から、そう読み取った。
「村が、この波動で包まれている事は確かじゃ…」
「入る時には、気付かなかったがのう…」
後鬼が腑に落ちないのは、そこであった。
「徐々にだが…力を増している…」
前鬼がそれに触れている。
「一体、何がどうなっているのか…」
「俺には、さっぱり分からぬ…」
阿瑠はなぜ自分がここにいるのか…
自分の使命さえも…
分からなくなってきた。
続く…