空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二十九
「これは…なんと!」
「何と言う事じゃ…」
あっという間に、嵐が囲まれた。
二人の婆さんが、嵐の前に跪き手をついた。
「お福婆さんも、こっちに来て座りなされ!」
もう一人の婆さんが言った。
「神様ですぞ!このお犬様は…」
見えていても、わかっていても…
言ってしまうものだ。
「俺は、犬ではない神だ!」
結局、嵐に咎められる。
「なんと!喋った!」
「神様が、お話になられるか!」
お福と呼ばれる婆さんが、嵐に近づき跪いた。
ぽっちゃりとした姿で、髪を鏡餅の様に結っている。
いかにも品の良さそうな感じである。
「この方が嵐様で、こちらが佐伯真魚様じゃ…」
お珠が皆に紹介をした。
「これは、また…」
「昴と、舞衣が連れてきたのか…」
もう一人奥に髪の長い蓬髪の女性がいた。
「あっちが舞衣の祖母で、乙瑠おつるじゃ…」
お珠がその女性を紹介する。
「そして、こっちが儂の息子、昴の父の羅矛らむじゃ」
羅矛は最初に目に入ってきた大柄な男だ。
「有り難や、有り難や…」
婆さん達が嵐を拝んでいる。
「お主ら、いつまでそうやっておる…」
「俺を拝もうが何も出ぬぞ…」
嵐が目の前の三人に言った。
一人は髪を首の辺りで切っている。
丸い顔に厚いまぶた。
そこに細い目、厚い唇が印象的である。
もう一人は頭の上で髪を結っていた。
だが、顔の作りは同じ。
どうやら…二人は姉妹か双子のようだ。
「美鷺みさぎ婆さん、神様が言うておられるぞ…」
美鷺婆と呼ばれた女が、目を開けた。
美鷺は髪が短いほうだ。
「おや、朱鷺とき婆こそまだではないか…」
美鷺婆は朱鷺婆の姿を見て、また目を瞑った。
「おい、真魚よ…」
嵐は困り果てた。
「婆さんに人気があるとは意外だ…」
真魚がそう言って笑っている。
「昴が、佐伯様に助けて頂いたようだ…」
「羅矛からも礼を言っておかねばならぬぞ…」
お玉が羅矛に言った。
「そうでしたか…」
「佐伯様、有り難うございました」
羅矛は丁寧に礼を述べた。
「さて、何から聞こうか…」
真魚は意にも介さず話を変えた。
「おや、おや、気の短いお方じゃ…」
美鷺が真魚を見て言った。
「だが、こんな方は見たことが無い…」
朱鷺婆が、真魚の耀きを見ている。
「なぜ、この村を…」
「あの男に見つけさせたのだ…」
真魚が皆に向かって言った。
「ほう…」
お珠が唸った。
見つかったのでは無い。
見つけさせた。
真魚はそう聞いているのだ。
「確かに…そうじゃのう…」
嵐が頷いている。
「これは、恐れ入る…」
昴の父、羅矛が驚いている。
「ふふっ…」
「どう考えれば…その答えに結びつく…」
乙瑠が、眉をしかめている。
だが、その口元は笑っていた。
「お主達の力…この村の仕組み…」
「見つかる要素など…どこにも無い…」
真魚があっさりと答えた。
続く…