空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二十八
「がっはっは~!」
お珠が笑いながら立ち上がった。
「ところで…」
「佐伯様達は、どこに行きなさる?」
「少し村を見てもらっていた所よ…」
舞衣が、お珠に説明する。
「ほに!」
「それは、丁度よかった」
お珠の笑みの意味。
「ひょっとして!」
「おばあちゃん!それで急いでいたの?」
昴が、その意図に気付いた。
「どういうこと?」
舞衣が二人を見ている。
「寄り合いがあるらしいの…」
「もう、とっくに始まっておるわ!」
お珠が昴の言葉に噛みついた。
「そこに行けば、全てわかるのか…」
真魚が、お珠を見て言った。
「全て…とはいかぬがのう…」
お珠が目を瞑って、笑っていた。
「おい!昴!」
「お主、何か忘れてはおらぬか!」
嵐が怒って、昴を睨んでいる。
「何か…あっ!」
昴が、口に手を当てた。
「お腹…」
昴は腹を押さえ、頭を掻いた。
「お腹…ではない!」
「これは大事な問題なのだ!」
嵐に、遠慮などという言葉は存在しない。
「これは、申し訳ありませぬ…」
「客人をもてなすのが、村の仕来り…」
お珠が昴に目配せをした。
「ま、舞衣、あなたも手伝って貰える…」
お珠の態度に、昴が怯えている。
「わ、わかった…」
舞衣の態度も、なんだかよそよそしい。
「先に、寄り合いに行くぞ…」
「そのうちに準備も出来るであろう…」
真魚が気を利かせ、嵐に言った。
「仕方が無いのう…」
嵐は、とぼとぼと真魚の後ろを歩いた。
「佐伯様は、儂らが引き受けた」
お珠のその言葉で、昴と舞衣は家に戻っていった。
「お主、何か握っておるのか?」
嵐が、お珠に聞いた。
「何の事ですかな?」
「昴も舞衣も、怯えていたではないか…」
「そのことですか…」
お珠が笑っている。
「子供の頃から悪さばかり…」
「知られたくないことの一つや二つ、あるでしょうなぁ…」
お珠が笑っている。
「全て、お見通しか…」
「ま、そういうことにしておくか…」
嵐が気になったのは、どうやらお珠の方らしい。
「さあ、あちらです」
お珠が、先頭に立って歩き始めた。
谷の合間に村がある。
村を割る様にして、真ん中に川が流れていた。
水が無ければ生活できない。
それは必然と言えた。
寄り合いの場は、村の中ほどの高台にあった。
藁葺きの大きな建物であった。
立派な柱が、大きな屋根を支えている。
何があっても倒れない。
そのような意思が感じられる。
村はこの建物を規準にして、広がっている。
そういう風にも見える。
それほど重要であると言う事だろう。
恐らく、祭祀などもここで行われるはずだ。
「さあ、こちらですぞ…」
お珠に案内されて中に入った
「ほう…」
真魚が笑みを浮かべている。
五十人ほどなら十分に入れる。
ただの空間であった。
そこに、数人の者が集まっていた。
筵の上に、一人の大柄な男が座っている。
あとはは皆、年老いた女ばかりであった。
「何だ、爺と婆の集まりか…」
嵐はそう表現した。
続く…