空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二十六
舞衣は、真魚達に村を見せていた。
「なかなか面白い村じゃのう…」
嵐が、真魚に並んで歩いている。
「見た目は何も変わらぬ…」
そして、そう付け加えた。
その言葉の裏には何かある。
「そうなのよね…」
先頭を歩いていた舞衣が、空を見上げた。
「生きている…この世は同じなのに…」
舞衣が立ち止まった。
「佐伯様は分かっているんでしょ…」
「私達が、なぜこうなるのか…」
舞衣は、胸に手を当てた。
「あの男が、畏れている…」
真魚が言った。
「あの男?…帝のこと?…」
黒い者達を嗾けた者。
舞衣は、それに気付いている。
「そう思うのならば、答えが見えている筈だ…」
真魚は舞衣に言った。
「だったら…」
「だったら、運命って…残酷なものよね…」
舞衣は、全てを受け入れた訳では無い。
自らの身に起きた変化にも、戸惑っている。
「真実の目だ…」
真魚がそう言った。
「真実の目?…」
舞衣の心が、その言葉に引き寄せられた。
「目に見えているものだけが、この世では無い…」
「そして、物は最も、波動が低き存在だ」
真魚が、舞衣に言った。
「波動が…物が低い…?」
舞衣には、何を意味しているのか分からない。
「物に惹かれる者は、低きものに導かれる…」
「後は、地を這うしかない…」
「神と呼ばれる者が、そうであってはならぬ…」
その言葉で…
舞衣の心が揺れた。
「それは…」
真魚が、帝の事を言っている。
帝に背く。
それは、絶対にしてはならないことだ。
だが、真魚の言葉は間違っていない。
舞衣には、それがわかった。
「本来、神の姿は見えぬ…高き存在だ…」
「人には、低きものしか見えぬということだ…」
「私達の世は、そうなっている…」
真魚の言葉で、舞衣が導かれていく。
「だが、この世でしか得られないものがある…」
真魚が舞衣を見た。
「人は…そのために生きているの…」
舞衣が、その言葉の意味を捉え始めた。
「人の上に立つ者が…」
「見えていなければ、民衆は苦しむことになる…」
今の世の憂いの訳を、真魚は感じていた。
「だから、真実の目…なの…」
舞衣の心が揺れている。
「私達に…関係がある…」
「私達が、その目を持つ…の…」
舞衣はそう感じた。
「今は、そうではないかも知れぬなぁ…」
嵐が合いの手を入れた。
「それが…答え…」
今度は、嵐の言葉が舞衣を誘う。
「だから…これが必要なの…?」
舞衣は、胸を押さえていた。
高鳴る胸の鼓動。
自らに込められた力。
「もう止められないのね…」
舞衣の中で、何かが動き始めた。
「運命としては、残酷かも知れぬ…」
真魚が、舞衣の変化を感じている。
「わかっているのね…あなたには…」
舞衣が、真魚を見ていた。
「新しい世のために…私達が…」
舞衣はそう決めていた。
「真実の目…」
委ねられた想い。
高鳴る胸の鼓動。
「それまでは…」
舞衣は、全てを受け入れようとしていた。。
続く…