空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二十五
「お、昴~生きておったか!」
昴が家の戸を開けると、そこに祖母の姿があった。
「私は囮だったの?!」
昴が眉をしかめながら、祖母の目を見た。
小さな身体に、しわくちゃの顔と小さな目。
後ろで束ねた白い髪。
それが、百合の花のように広がっている。
「おばあちゃん…」
昴は祖母を抱きしめた。
「母さんに惟…」
昴にそっくりな母と弟。
二人の姿を見守っている。
「父さんは?…!」
昴の顔に陰が浮かぶ。
「心配するな、生きておる…」
「今は、村の寄り合いじゃ…」
祖母が昴に言った。
「お前には、済まぬ事をした…」
祖母は、昴に詫びた。
「いいの…皆が生きていれば…それで…」
昴は心からそう思った。
「で、連れてきたのか?」
祖母がいうおかしな言葉。
「連れてきた??」
昴が問い直す。
「一緒に誰か、来ているのであろう?」
「まさか、おばあちゃん!」
昴は驚いていた。
「それが、お前の役目じゃ!」
昴を見て笑う祖母の小さな目。
昴は、呆れて言葉も出ない。
「それなら、最初から言ってよ!」
次に出たのは怒りであった。
「まず生き延びねば、意味が無い…」
祖母が言った意外な言葉。
「生き延びるって…どういうことよ…」
昴には、その意味が理解出来なかった。
外に逃げれば生き残る…
そんな、話でもない。
「さあ、儂を案内せんか!」
なぜか祖母は、機嫌が良かった。
「あれは、こういうことだったの…」
昴は、その時の状況を思い出していた。
「まさか…これが…」
昴は、自分の胸に手を当てた。
そこにお守りが隠されている。
「まぁ、そういうことにも…なるのかのう…」
祖母は曖昧な返事をした。
「ねえちゃん、早く連れて行きなよ!」
弟の惟が指を差している。
うんざりした表情で、それを伝えている。
「待っていたの…?」
昴が祖母に聞いた。
「いや、待たされておったのかのう…」
「長い間…」
その言葉の中に、祖母の想いが隠されていた。
「わかるわ…」
昴が祖母に言った。
「当たり前じゃ、儂の孫じゃ」
祖母が笑みを浮かべた。
「私は、あの方に救われた…」
「ほに…」
「だったら、この村も…」
「ほに…」
昴の言葉に、祖母がうれしそうに相槌を打つ。
「佐伯様は、それだけの方よ…」
昴の心に嘘はなかった。
「ほに…」
祖母の笑顔。
その意味を、昴は理解していた。
続く…