空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二十四
「俺の命は、拾ったようなものだ…」
阿瑠は、刀から手を離した。
「命をそういう風に言うでない…」
後鬼が言った。
「俺は、あれに飲み込まれそうになった…」
「俺は…一度死んだのだ…」
阿瑠は、闇を思い出していた。
「あれとは、闇のことか?」
前鬼が、それに気付いた。
「佐伯殿はそう言っていた…」
「だが…」
阿瑠は言葉に詰まった。
思い出すだけで、その恐怖が蘇る。
「人が及ばぬ力か…」
後鬼が、阿瑠の心を見ている。
「真魚殿がいたから、助かったのじゃ…」
「有り難いではないか…」
後鬼が、その事実を阿瑠に示す。
「それで、お主らの目的が潰えたわけか…」
「いや、あの男か…」
前鬼が、笑みを浮かべている。
「まだ、終わった訳では無い…」
「それが、佐伯殿との約束だ…」
「約束?それは何じゃ?」
後鬼が、阿瑠に聞く。
「それは、答えられぬ…」
阿瑠が、口を閉ざした。
「村人の口を封じてまでも、欲しい物か…」
「あの男らしいのう…」
前鬼が、そう言って笑った。
「なぜ、その事を知っている…」
漏れるはずの無い情報が、知られている。
阿瑠が、怪訝な表情を見せた。
「知っているのでは無い…」
「全ては儂の想像だ…」
前鬼が答えた。
「この土地に昔から伝わる話…」
「そこから、考えて…この村の有様だ…」
前鬼が、手を広げて村を見せた。
誰もいない村。
それ自体が、不思議な話である。
「その昔…何処かの王が、この土地を抜けて倭に向かった…」
「それが、本当の話なら…」
「何もなかったでは、済まされぬ…」
「そういうことでは無いのか?」
前鬼が、阿瑠の顔色を伺った。
「俺は、詳しい話は知らぬ…」
「命令に従っただけだ…」
阿瑠達に下った命令。
関わりが無いとは言い切れない。
「どうせ、隠されている何かを…」
「奪って来いとでも、言われたのであろう?」
前鬼が阿瑠を見た。
一瞬、阿瑠の瞳が動いた。
その心の動きが、前鬼と後鬼に伝わっている。
「まあ、良い…」
「真魚殿が、見つけて来るであろう…」
前鬼が笑っている。
「真魚殿のことじゃ、心配ない…」
後鬼が、阿瑠を見て言った。
「そうなのか…」
「全て、分かっていたのか…」
阿瑠は考え込んだ。
「持ち帰ら無ければ、殺される…」
後鬼が阿瑠の状況を見抜いている。
阿瑠は、その事実を抱えたままだ。
「だから、真魚殿は動いたのじゃ…」
真魚の行動の理由を告げた。
「まさか…俺のため…」
阿瑠は気付いた。
「いや、昴と…か…」
阿瑠は、真魚の心を感じた。
二つの命。
その耀きのために、真魚は動いた。
「それが、真魚殿じゃ…」
後鬼が、笑みを浮かべてそう言った。
続く…