空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二十二
空が明るくなってきた。
山の生命が目覚め始める。
「あそこが、新しい村よ…」
舞衣が指を差した。
その村は、朝靄に隠れていた。
「ほう…」
真魚が何かを感じ、笑みを浮かべた。
「あれが…」
「まるで、誰かが住んでいたみたい…」
昴は、村の雰囲気をそう感じていた。
その事実が信じられない様子であった。
「そうよ、住んでいたのよ…」
舞衣は昴を見て言った。
「どういうこと…?」
昴は舞衣を見て驚いている。
「行けばわかるわ…」
舞衣の口元に、笑みがこぼれる。
「食い物の心配はなさそうじゃのう…」
嵐が足下から見上げている。
「そう言えば、私もお腹が空いたな…」
昴が嵐を見て笑った。
村の入り口まで来ると、昴の表情が変わった。
「本当に似てる…前の村と…」
全く同じではない。
だが、細かい事を除けば、同じと思えるほどだ。
「面白いでしょ…」
舞衣が昴を見た。
「違う世界か…」
真魚がつぶやいた。
「あなたは、そう感じるのね…」
舞衣が、真魚を見て笑みを浮かべている。
「村の人は、気付いていないわ…」
「一部を除いてはね…」
舞衣が、村を眺めている。
「さて、俺は仕事に戻るか…」
朔が、昴に聞こえる様に言っている。
「仕事って何よ?」
昴が朔の言葉を怪しんでいる。
「前の村には、今は戻れない…」
「食い物がいるだろう?」
朔はそう言って、昴に背を向けた。
「安心するのはまだ早いわ!」
嵐が、朔を見て笑っている。
「昴、家は分かる?」
「家って、ここは違う村でしょう…」
「なんだか凄く似てるけれど…」
舞衣の言っている意味が、昴には分からない。
「鏡、見たことあるわよね…」
舞衣が、昴を導いた。
「あるわよ…そんなの誰だって…」
昴はそう言って村を眺めた。
「あっ!」
その変化に気付いた。
「うそっ…」
「こんな事って…あるの…」
昴が驚いている。
「あるのよ!」
舞衣が笑っている。
「波動が違う…」
「前の世界とはな…」
真魚がつぶやいた。
「違うというほどでもないがのう…」
神の感覚からはそれほどのものだ。
「食い物の臭いは変わらぬ…」
嵐が鼻を立て、臭いを嗅いでいた。
「行って見る…」
昴が走った。
太陽の光が道を照らしていた。
「うっ…」
阿瑠が額を押さえて起き上がった。
頭痛がした。
「こんなひどい目覚めは久しぶりだ…」
阿瑠は周りを見渡した。
昴の元の家。
そこに、昴と真魚の姿はなかった。
「謀られたか…」
諦めたように阿瑠はつぶやいた。
「仕方ない…」
阿瑠は頭を押さえ、ゆっくりと立ち上がった。
「おや、ようやく…お目覚めかい…」
家の外から声がした。
聞いた事のない女の声。
阿瑠から姿は見えない。
「誰だ!」
阿瑠はゆっくりと、刀を抜いた。
「おい…」
「若造、物騒な物は仕舞え…」
「儂らは真魚殿の使いだ…」
今度は男の声だ。
「あの男の…」
その話が本当ならば、逃げたのではない。
「言っておくが、人如きにうちらは倒せぬぞ…」
女の声がそう言っている。
「どういうことだ…」
阿瑠の心を、畏れが囲んでいる。
「信用できぬなら、そのまま出てこい…」
男の声が言った。
「出たところを…仕留めるか…」
「それも良いだろう…」
何度となく、訓練を積んでいる。
阿瑠は扉を蹴り飛ばし、横に跳んだ。
そして、すぐに起き上がり、身構えた。
だが、周りには誰もいなかった。
「ここだ!」
男の声がした。
阿瑠はその方向に顔を向けた。
屋根の上に、二つの人影があった。
「朝から、騒がしい奴だのう…」
女の声が笑っていた。
続く…