空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二十一
滝の裏に洞窟があった。
だが、入り口は小さい。
大人は腰をかがめて入るのが、やっとであった。
中に入ると意外に広い。
「ほう…」
それよりも…
真魚を驚かせたのは、囲んでいる岩であった。
手で触れて、何かを感じている。
灯りはない。
先頭の舞衣の身体が、ほんのり耀いている。
そのあとに昴、朔、真魚と続く。
嵐は足下を自由に動き回れる。
どこにいようが自由である。
「その棒、便利だな…」
朔が感心している。
真魚の棒が耀き、灯りの役目を果たしていた。
「舞衣と言い、その棒と言い…」
「まったくどうなっているんだ…」
朔には理解不能である。
「おかげで、前に進めるのよ!」
昴が朔に言う。
「お主には、死んでもわかるまい…」
足下で嵐の声が聞こえる。
「ほらね…」
昴が笑っている。
昴と同じ事を、嵐に言われたからだ。
「いてっ!」
背の高い朔が、岩に頭をぶつけた。
「なんで止まるんだよ…」
朔が頭をさすっている。
「行き止まりか…」
真魚がつぶやいた。
「いいえ…」
舞衣が答えながら、前方の岩を手で押した。
「ほう…」
真魚が笑みを浮かべている。
がたん!
音を立てて岩が動いた。
その先に洞窟が続いている。
「さあ、行きましょう」
舞衣がその中に入った。
「朔、あなた以外に出た人はいないわよね」
舞衣が朔に確認を入れた。
「俺が最後だ、それは間違い無い」
朔が答えた。
「昴、先に進んで…」
「私はここを閉じるから…」
舞衣が、昴を手で誘導した。
「舞衣、それって…」
身体を入れ替えながら、昴が舞衣に聞いた。
「そうよ、黒い者を消したのと同じ…」
昴の問いに、舞衣が答えた。
「いつの間に…そんな術を…」
昴の知っている舞衣は、そんな事はできなかった。
「これも…私達の使命…」
舞衣が、そう言って真魚を見た。
列の最後である真魚の向こうで手を翳した。
そして、何もない空間を撫でた。
「うそっ!」
昴が瞬きをするよりも早く、岩が閉じた。
昴にはそう見えた。
「さすがに、あなたは驚かないのね…」
舞衣が真魚を見つめている。
「同じような力を使う者が、友にいる…」
真魚は、微笑んで舞衣を見た。
「そう…」
舞衣の頬が、一瞬赤くなったように見えた。
「行きましょう…」
真魚から視線を外し、舞衣が言った。
「あの女、面白い術を使いよる…」
嵐が、舞衣に興味を持ったようだ。
「お主の目には見えているのか…」
真魚が嵐を見て、笑みを浮かべた。
嵐が、人に興味を持つことは珍しい。
「神の目だからな…」
嵐がそれだけを答えた。
続く…