空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その十八
三つの気配が動かない。
舞衣は、既に真魚達に気付いている。
真魚達を待っている。
そう考える方が正しいと言えた。
「お出迎えか…」
真魚が、笑みを浮かべている。
「滝か…」
その音が聞こえている。
急に森が開き、闇の中に滝が見えた。
大きな岩の前に三人がいる。
昴と舞衣。
そして、見知らぬ一人の男。
真魚と嵐は構わず、滝に向かって歩いた。
「あの男か…」
朔が、吐き捨てるように言う。
「神などいないではないか…」
朔の目の前には、一人の男と、一匹の子犬。
もし、生命の耀きが見えていたら…
朔は、腰を抜かしたことであろう。
「あなたには死んでも見えないかもね…」
「あの耀きが…」
昴が朔にそう言った。
「耀き?何の事だ…」
「いるじゃない…」
朔の戸惑いに、昴が笑みを浮かべた。
「どこにいるのだ?」
「そこに…」
「だから、どこだ!」
「だから、そこに!」
朔の問いに、昴が堪らず指を差した。
「子犬じゃないか!」
言ってはならぬ言葉。
それを、朔は言ってしまった。
「誰が、犬じゃ!」
「!!!」
朔が驚いている。
「今、誰か喋らなかったか?」
「だから、誰が犬じゃと、聞いておるのだ!」
朔の足下で、子犬の嵐が見上げていた。
「い、い、い犬が喋った!!」
朔が同意を求めるように、昴の袖を握った。
「神様よ…」
昴が笑って言った。
「こっ、こっ、これが、神様!!」
「お主、食らってやろうか…」
驚く朔を見て、嵐が言った。
「人も、食らうのか?」
今度は舞衣に、真意を聞いている。
「知らないわよ!」
「何なら、少し囓ってもらえば…」
今度は、舞衣が朔をからかう。
「やっぱり…まずそうだから止めておく…」
「一番うまい…肝っ玉が小さすぎるわ…」
嵐が、朔に尻を向けた。
「見抜かれてるわ…」
その様子を見て、舞衣が笑っていた。
続く…