空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その十七
はははっはっ~
「しぃっ!声が大きい…」
朔の笑いを、舞衣が止めた。
「神様を味方にだと!」
朔が小声で言った。
「お前ら、本当に頭がおかしくなったのか?」
昴の言葉を笑っている。
「朔は死んでもわからないかもね!」
舞衣が、朔を見て言った。
「神などこの世にいるものか!」
朔は神を信じていないらしい。
「見たんだから、受け入れるしかないでしょ!」
昴は、朔に言い放った。
目に見えないから、信じられないのか…
信じられないから、目に見えないのか…
人にはそれぞれに宇宙がある。
いわゆる『主観』と言うものだ。
主観の周りは、真実の壁で出来ている。
つまり、自らで感じ取った全てが、
真実であると言う事だ。
客観性は、この主観が交わる点だと言える。
それは即ち共観である。
共観は重なった真実である。
そもそも…
この世に「客観性」などというものは存在しない。
あるのは「主観」だけなのだ。
共に観じ、共に生きる事は…
それだけで意味があるということだ。
だが、主観が違うからと言って、間違いでもない。
真実は形を変える。
見え方が違う…だけかも知れないのだ。
しかし、真実の壁の向こうは「未知」の世界。
未知のものを受け入れるには、体験が必要なのである。
「見ただと…」
「昴は、神の姿を見たのか?」
朔は、昴の言葉に驚いていた。
「ええ、この目ではっきりとね…」
昴は、自らの目を指さした。
昴は、嵐の姿を見て、受け入れたのだ。
「待ってみる?そこまできているわよ」
「どうせ、逃げられないし…」
舞衣が話に割って入った。
「どんな奴だ、大丈夫なのか…」
朔の心が、不安で揺れている。
「私は、佐伯様に助けられた…」
「神の獣に救われた…」
昴はあの恐怖を、忘れることはない。
「いるのか…神が…」
朔の心が、戸惑っている。
昴の言葉が、朔を導いていく。
朔の想いが、すぐ側に存在していた。
「末裔とは何の事だ…」
嵐がつぶやいた。
昴と舞衣の声は、嵐にしか聞こえない。
嵐が通訳をしている様なものだ。
「なるほどな…」
「あの男のやりそうな事だ…」
真魚が笑みを浮かべている。
「お主…何か感づいておるな…」
嵐は真魚の笑みを嫌っている。
その先にある面倒な事。
嵐はそれを感じているのだ。
「時が過ぎると、さすがにあの男も気付く…」
真魚が、嵐に言った。
「何のことだ…」
嵐にはどうでも良いことだが、気になる。
「戻ってこないのは、失敗したと言う事だろう?」
逆に真魚が問いかけた。
「抹殺が目的なら、次もあると言うことか…」
嵐はそう解釈した。
「切り札はとってある…」
真魚が、笑みを浮かべていた。
続く…