空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その十六
「いったい…どこまで行くの?」
舞衣は、暗闇であっても構わず歩く。
まるで見えているかのように、森を進んで行く。
ほんのりと耀く舞衣の身体。
昴はそれを追いかけているだけだ。
「この奥に滝があったでしょ?」
舞衣が、歩きながら昴に言った。
「昔、よく遊んだ所?」
子供の頃、皆で川で遊んだ。
その記憶が昴に蘇る。
「滝の裏の洞窟、知ってる?」
舞衣が昴に聞いた。
「あの、入ってはいけない洞窟のこと?」
昴の村では言い伝えがあった。
『滝の洞窟に入れば、戻れなくなる…』
『この世とあの世の境目…』
そう伝えられて来た。
「そうよ…」
「まさか!あの洞窟…」
舞衣の言葉で昴が気付いた。
「どこかに…抜けられるの…」
この世と、あの世の境目…
その言葉の意味が、今の昴にはわかる。
「洞窟を通る時は、死ぬ覚悟…」
昴は、今がその時だと感じていた。
滝の前の岩陰に、一人の男が隠れていた。
明らかに何かを警戒している
年の頃は昴や舞衣と同じ。
乱れた髪を後ろで束ねている。
細くつり上がった目。
その目で、岩陰から周りを伺っていた。
そこに、舞衣と昴が現れた。
男はそれに気付くと、岩陰から姿を見せた。
「舞衣、こっちだ…」
小さな声を出した。
虫の音の中に、その声が響く。
「朔、あなた待っていたの…」
「誰かに見つかったらどうするの?」
舞衣が呆れていた。
「朔、朔なの?生きていたの!」
「昴、昴なのか!」
朔という青年が、昴の姿を見つけた。
「そう言うことなのね…」
舞衣が、朔を見ている。
「なんの事だよ!」
朔の否定は意味をなさない。
舞衣にはすべてを見抜かれている。
「追手はいるのか?」
朔がうまく話をすり替えた。
二人を守る…
その決意だけは出来ているようだ
「一人…」
「正確には、一人と一匹かな…」
舞衣が振り返って見ている。
「もしかして…佐伯様と嵐?」
昴は、舞衣の言葉で気がついた。
「俺が相手してやる!」
朔が、二人の前に出ようとした。
「朔…あなたは相当の馬鹿ね…」
舞衣がまた呆れている。
「俺は!お前らを守ろうと…」
朔の決意は固いようだ。
「きっと…」
「百人でかかろうが、あの人には勝てない…」
昴がその答えを言った。
「それは、どういうことだよ!」
自尊心を傷つけられた、朔の鼻息が荒い。
「だって、神様が味方しているんだもの…」
昴が朔を見て言った。
続く…