空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その十四
「舞衣…やっぱり舞衣だった…」
昴は、安堵の表情を浮かべた。
引き寄せられた光の正体が見えた。
「昴、黙って私に付いてきて…」
舞衣はそう言った。
昴は頷いて、舞衣の後ろを歩いた。
「面白い方に、出会ったのね…」
舞衣は振り向きながら昴に言った。
「佐伯様の事?」
「あの子犬もよ…」
舞衣は既に、嵐の力を見抜いていた。
「子犬じゃないわ、嵐は神様よ!」
嵐の口癖が、昴に移った。
それほど昴が見た嵐の姿は、凄かったに違いない。
「私も見たわ…」
昴の心を読んだかのように、舞衣が言った。
「じゃあ、あれも見たの?」
昴は、闇の恐ろしさを思い出した。
「あれが呼んだのよ…私を…」
舞衣から出た意外な言葉。
「どうして、舞衣が呼ばれたの…」
その時、昴は嵐の言葉を思い出した。
『生きているとは、限らぬぞ…』
昴が立ち止まった。
「どうしたの?」
舞衣が直ぐに気付いた。
「舞衣は生きているの?」
昴が険しい表情で言った。
「その事か…」
舞衣が笑みを見せた。
「昴は聞いていないのね…」
「聞いていない?何を?」
昴には、舞衣の言葉の意味が分からない。
「昴の持ってるその剣…」
「そして、首に提げているお守り…」
「私の身体…」
舞衣はそう言って手を広げた。
「何なの?」
昴がその仕草に驚いている。
「何か分からない?」
闇に浮き上がる、淡い光。
「繋がっている…」
昴がその光を見て、驚いている。
「昴、これは偶然ではないの…」
昴を見つめる舞衣の目は、真剣であった。
「偶然では…ない…」
昴の心にその響が伝わる。
「これは運命なのよ…」
舞衣が昴に言った。
「運命…」
昴は、その言葉をつぶやいた。
「これを見て…」
舞衣が着物の帯を緩めた。
そして、昴に背を向けた。
「何をする気…」
女である昴が、頬を赤らめている。
着物を脱いだ。
舞衣の背中が露わになった。
「ああ…」
闇の中に妖しく光る白い肌。
その美しさと共に、目を奪うもの…
「舞衣…あなた…」
昴の瞳から涙が溢れた。
背中にある大きな傷痕。
塞がってはいるが、その傷は深く大きい。
「どうしたら…そんな傷が…」
そして、生きている事が奇蹟と言えた。
「生かされているの…」
舞衣がそう言った。
「これが…運命…」
舞衣の背中の、無惨な傷痕…
昴は、涙を浮かべて立っていた。
その傷痕から、目を離す事ができなかった。
続く…