空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その十二
「担がれた…だと…」
真魚の言葉が、阿瑠を揺さぶる。
「お上の命令が、嘘だと言うのか…」
阿瑠の心は乱れていた。
普段なら疑う事などない。
だが、あれを見てしまったのだ。
人が及ばぬ力。
その力に、仲間が命を落とした。
それだけではない。
他の仲間も、得体の知れないものに襲われている。
「やはり…あの男か…」
真魚は笑みを浮かべていた。
「どうして、騙す必要があるの…」
昴もその事実が、信じられない。
それは、村人の抹殺という答えに導く。
なぜ、村人が殺されなければならないのか…
昴には全く理解出来ない。
その答えに辿りつく為には…
まだ、幾つかの謎が残されている。
「舞衣が知ってる…?」
昴はそう思った。
舞衣に似た影。
通り過ぎた後に残る着物。
何かを知っているかも知れない。
昴の心がそう言っている。
ぐうぅぅぅ~
嵐のお腹が鳴った。
その音が、一日の終わりの音かも知れない。
「真魚、そろそろではないのか?」
嵐が当然のような態度で言う。
「そういうことになるな…」
空には星が輝き始めていた。
真魚達は、昴の家で食事にした。
昴は、どこからか食料を集めてきた。
真魚と阿瑠が、竃の火を起こしている。
「少しずつ、頂いて来た…」
村には、誰もいない。
昴は申し訳なさそうに野菜の入った籠を置いた。
「構わぬ、構わぬ、俺が許す…」
子犬の姿をした神が、ご機嫌である。
「神様もお腹が減るの…」
昴がその事に驚いている。
「身体を動かした分は、補給せんとな…」
嵐が言うことも、間違いではない。
昴も、阿瑠も嵐に救われたことに違いはない。
「どうして、あの姿のままでいないの?」
金と銀の美しい獣。
昴はその姿が気に入っていた。
「あの姿のままでは、霊力が保たぬ…」
「この世で、あの姿を維持するのは、無理がある…」
嵐が昴に答えた。
「そうなんだ…」
だが、昴にはよく分からない。
昴は籠から野菜を出し、皮をむいた。
それを器に入れていく。
「食べ物だけはね…与えてくれる…」
山奥の村には何もない。
だが、昴はそのことに感謝していた。
人は、食べ物さえあれば生きて行ける。
まず最初に必要なものだ。
それ以外は必要ない。
太古の人はそう言うかも知れない。
昴は、器を竃まで持って行った。
そして、水を入れて火に掛けた。
真魚がその中に何かを入れた。
「何?それ?」
昴が嗅いだことのない臭いが広がった。
「醬醢だ…少し舐めてみろ…」
真魚は昴の手の平に少し乗せた。
昴がそれを、指で掬って口に入れた。
「おいしい…!」
昴はその味に、驚いている。
「この食べ方は、まだ知られていない…」
「この国でも、一握りだけだろう…」
「ほんと?」
昴の表情に、真魚が笑っている。
初めて見せる愛らしい姿であった。
「いいにおい…」
昴はその香りで、心が救われた気がしていた。
続く…