空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その十一
村までは少し時間がかかった。
その間に太陽が傾いていく。
村の入り口まで来ると、空が茜色に染まっていた。
「あれっ?」
昴が何かに気付いた。
「ほう…」
真魚が笑みを浮かべている。
「どうしたのだ、二人とも…」
阿瑠が怪訝な表情で、二人を見た。
「お主には分からぬのか?」
嵐が阿瑠を責める。
「何がだ!」
阿瑠は嵐の鼻先に誘導された。
「…」
阿瑠はその光景に戸惑った。
人だけがいなくなった村。
阿瑠にはそう見えた。
いつ、子供が飛び出して来ても、不思議な感じがしない。
生活が営まれている。
そんな感じがしていた。
「これが、お主らが襲った後なのか?」
嵐が阿瑠にそう言った。
「俺達は、逃げた者を追いかけた…」
その中に、昴がいたことは明白な事実だ。
「隠されているか、持って逃げるか…」
「大切な宝なら、どちらかだろう…」
阿瑠達は、その宝を奪いに来たことになる。
しばらく、村の中を歩きながら生存者を捜した。
「これは!」
阿瑠が見つけたものは、仲間の着物であった。
「同じだ…」
阿瑠が考え込んでいる。
昴が歩きながら、涙をながしていた。
「私達が…何をしたって言うの…」
涙と共に怒りがこみ上げる。
誰もいない。
その事実が、昴に幻想を見せていた。
「昴、何か感じないか?」
真魚が昴に言った。
「感じるって!」
「前と変わらないよ!何も変わらない!」
昴は叫んだ。
「それだ…」
真魚がそう言った。
「血の臭いもしないのう…」
嵐がそう言った。
「えっ、どういうこと!」
昴は自らの感覚を広げた。
村人は殺された筈だ。
昴はそう思い込んでいた。
「生きて…いるの…」
昴に湧き上がるかすかな希望。
「それは分からぬが…」
「屍の一つぐらいあっても良かろう…」
真魚がその事実を告げた。
「ああ…」
昴の瞳から涙がこぼれた。
「喜ぶのはまだ早い…」
「何かが起こった…それは事実だ…」
真魚が村を見ていた。
「俺の仲間だけが、やられたのか…」
阿瑠は信じられない様子であった。
「村人は、殺すつもりだったのか?」
真魚が阿瑠に聞いた。
「秘密を知る者は全て消せ、という命令だ…」
阿瑠が答えた。
「お主はどう思ったのだ?」
「どうって…」
真魚の問いの意味が、阿瑠には分からない。
「おかしいとは思わなかったのか?」
「おかしい?なぜだ?」
阿瑠は、迷宮に迷い込んで行く。
「なぜ、殺さねばならないのだ…」
「こんな、山奥の村人だ…」
真魚がそう言った。
「それほどの秘密と言う事だろう…」
阿瑠は、それが正当な理由だと考えていた。
「本当に宝はあったのか?」
昴は宝を知らないという。
それ自体が存在する、明確な事実はない。
「それは…」
真魚が聞いた問いは阿瑠を黙らせた。
阿瑠はしばらく考えていた。
「何かが、ずれているとは思わぬか?」
真魚が笑っている。
「では、どういうことなのだ…」
阿瑠が匙を投げた。
「お主らが、担がれたのではないのか…」
真魚は茜色の空を見て笑っていた。
「なんだと!!」
阿瑠はその言葉に、心を囚われた。
続く…