空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その十
「どうして…逃げるの…」
昴は信じられなかった。
村が襲われた時、死んだと思っていた。
生き残ったのは、昴だけのはずであった。
「舞衣…」
昴の瞳から涙がこぼれた。
「知り合いなのか…」
阿瑠が昴に聞いた。
「あんたらが…殺したんでしょ…」
昴は阿瑠を睨んだ。
阿瑠は目をそらした。
「すまぬ…」
今の阿瑠には、昴の痛みを受け止められない。
「昴の幼なじみか…」
真魚は昴に聞いた。
「そうよ…多分…」
「はっきりとは、わからなかったけど…」
昴にはそう見えた。
「残念じゃが、生きているとは限らぬぞ…」
嵐が昴を見上げた。
嵐は、その気配をそう感じた。
「そんな!」
昴は嵐と目が合った。
「想いが見せた、幻影かも知れぬ…」
真魚がそう言った。
「じゃぁ…あれは…」
人の気配はしなかった。
昴は、その影を思い出していた。
「この残された着物は、どう言う事なのだ…」
阿瑠が、その事実に戸惑っている。
何者かに襲われたとしても…
骨も残らぬ屍など聞いた事もない。
「そのうちに分かる…」
真魚が笑みを浮かべている。
「村は、女が消えた方か?」
真魚が昴に聞いた。
「そうよ…」
「では、行くしかないな…」
真魚がそう言って歩き始めた。
いつの間にか、順番が入れ替わっている。
真魚、嵐、昴、阿瑠。
真魚には既にその場所が見えている。
そう思えるほど、正確に山の中を歩く。
道と言える程の道は無い。
獣の通った後か、下草の切れ目か…
それほどの違いしかない。
「どうして、道が分かるの?」
昴は真魚に聞いた。
「道が分かる訳ではない…」
真魚はそう答えた。
「では…」
昴は気付いていた。
真魚が追っているものを、昴は既に感じていた。
「ひょっとして…導かれている…」
昴の中に、ある考えが浮かんだ。
人は何かに導かれ、行動を起こすことがある。
「舞衣が、呼んでいる…?」
昴は、そう思っていた。
しばらく歩くと、森が明るくなった。
そこから、山が下っている。
光が射す方へ行くと、森が切れた。
眼下に大きな川が流れていた。
「あそこよ…」
昴が指を差した。
その川の支流に沿って、小さな村があった。
「ほう…」
真魚が笑みを浮かべていた。
続く…