空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その八
昴の涙はしばらく続いた。
その間、真魚と嵐は黙って座っていた。
阿瑠は仲間に別れを告げ、亡骸に土をかけた。
「聞きたい事がある…」
その声に、昴は顔を向けた。
昴の後ろに、阿瑠が立っていた。
昴の身体が、緊張している。
だが、阿瑠の殺気はもうない。
「あの笛は誰に習ったのだ…」
阿瑠は昴に聞いた。
「なぜ、そんな事を聞く…」
「あれは、代々伝えられる音色だ…」
昴は、意外な問いに戸惑った。
「俺は…大きな過ちをしたのかも知れぬ…」
「なんだと!」
昴は、阿瑠の言葉に声を荒げた。
今更、何を言われても遅い。
「お主の笛は…母の音色に似ている…」
阿瑠が昴に、その事実を告げた。
「それが、どうしたと…」
昴はそこまで言いかけて、気がついた。
「まさか!同じ…」
昴は、自らの考えを否定した。
「わからぬぞ…」
真魚が二人を見ていた。
「伝えられる笛の音は、意味を持つ…」
真魚が、二人に言った。
「お主の笛の音を聞くと、胸が痛む…」
「こんなことは、今までなかった…」
母と同じ笛の音が、阿瑠の心を苦しめている。
その理由は阿瑠も分からない。
「良く見ると、お主なかなか美しいのう…」
嵐が、昴の顔を覗き込んでいた。
「何を言っているのだ!」
昴が顔を赤らめた。
「涙が、洗い流したようじゃなぁ…」
嵐がその理由を告げた。
涙で、顔の汚れが落ちている。
だが、それだけではない。
「その犬、喋るのか!?」
阿瑠は距離が離れていたため、気付かなかったようだ。
「犬ではない!俺は神だ!」
「神だと!」
阿瑠が驚いている。
「俺の、勇姿を見なかったのか!」
嵐が、阿瑠を責め立てる。
「もしや、闇が急に衰えたのは…」
「俺の力じゃな!」
嵐は、手柄を全て自分のものにした。
「あれを…退治したのか…」
阿瑠に全ては見えていない。
光となった嵐を、目で追いかけるのは無理だ。
「阿瑠の故郷はどこだ」
真魚が阿瑠に聞いた。
「ここから、ずっと西の方だ…」
阿瑠は答えながらも、嵐を気にしている。
「なるほど…」
真魚が笑みを浮かべた。
何かを感じたことは間違いない。
「こら、真魚!」
「お主、また良からぬ事を考えておるであろう?」
嵐が、真魚の笑みの意味を読んでいる。
「嫌なら、来なくても良いのだぞ…」
「昴は案内を頼む」
真魚は、嵐を横目で見ながら昴に言った。
「案内って…」
真魚の言葉の意味が、昴は分からない。
「阿瑠が欲しがっている物を、捜しにいく…」
真魚は阿瑠を見た。
「見つけたら、昴は解放しろ…」
真魚は阿瑠に言った。
阿瑠は間を取って考えていた。
「まぁ…いいだろう…」
そして、しぶしぶ条件を呑んだ。
闇の姿を思い出したに違いない。
「私は、まだ答えていない…」
昴は、巻き込まれるのを嫌っている。
「俺といたほうが安全だぞ…」
嵐が、昴に言った。
「それは…」
あの時、昴には嵐の姿が見えていた。
「決まりだ…」
昴の答えを聞かないうちに、真魚が全てを決めた。
続く…