空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その七
昴は高揚感に包まれていた。
だが、そこにやすらぎもあった。
同時にそれらが存在している。
その事実が、不思議であった。
昴は、笛を懐に入れ立ち上がった。
「あなたが、あれを呼んでくれたのか?」
座っている真魚の前に立った。
「導いたのはそうだが、力の無いものには見えぬ…」
そう言って阿瑠の方を見た。
「あいつには見えていない?」
昴にはその事が驚きであった。
「笛の音には感動していたようだが…」
真魚は、阿瑠の様子を伺った。
「お主、なかなかやるのう…」
子犬の嵐が昴を見上げている。
「やるって、何を?」
その事が昴には分からない。
「泣いていたではないか?」
嵐が昴を見上げている。
「それは…その…」
昴の頬が赤くなった。
別の意味で、恥ずかしいようだ。
「あれは…何なの…」
昴が真魚に聞いた。
「純粋な生命エネルギーだ…」
真魚が答えた。
「生命…」
昴は黙って考えた。
「儚く、悲しく、愛おしい…」
「そうではなかったか?」
真魚は昴に聞いた。
昴は黙って頷いた。
「でも、生命って、身体に宿るものではないのか?」
昴はそう教わって来たらしい。
「周りを見てみろ…」
真魚が手を広げた。
昴がきょろきょろと、周りを見渡している。
「この世にある物は、全て生命だ…」
「それ以外のものは、何一つ無い…」
真魚が昴を見た。
「あ…」
昴の目が見開いた。
昴の中で、何かが繋がっていく。
理由もなく組み上がる。
思考の中で、何かが変わって行く。
その感動が、心を揺らしている。
「私の…身体も…」
「みんな…」
「あれで…」
限りない慈悲の光。
昴はその真実を知った。
昴はじっと自らの手を見ている。
「それ以外は…ない…」
真魚の言葉が染みこんでくる。
その真実を味わっている。
「何という…」
その手の平に光が落ちた。
一つ、二つ…
昴は、理由も分からず泣いていた。
心が震えている。
その波動が、次元の膜を揺らしている。
それが、全てに伝わる。
真魚にも、嵐にも、あの男にも…
昴は絶対的な真実に触れた。
それは、昴自身が変わったという証でもある。
だが、昴はその変化について行けない。
思考が混乱し、心の感動に、追いつかない。
昴は戸惑い、座り込んだ。
そして、ある事実にも気がついた。
「あの男も…同じなのだな…」
全てを奪った者への憎しみ。
その重き苦しみと、昴は闘っていた。
「私と…あの男さえも…」
昴は真実を見ている。
心が震えてとまらない。
だが、その事実だけは、認められなかった。
昴は、天を恨むかのように見つめていた。
残酷な事実。
それを受け入れるのは、昴自身だ。
全てを洗い流し、生まれ変わる。
昴の涙が、真実を語っている。
深く長いその涙…
自らと戦いながら、昴は泣いていた。
続く…