空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その二
「ほう…」
森の中に波動が広がっていく。
次元の膜を伝わる波。
真魚以外にそれを感じる者はいない。
「嵐、来るかも知れぬぞ…」
真魚がそう言って、笑みを浮かべた。
強い光は濃い影を産む。
伝わる波動はその呼び水となる。
「丁度、腹が減っていたのだ…」
嵐と呼ばれた子犬が、舌なめずりをした。
来る…
この男はそう言った。
その言葉に喜んでいる。
嵐というこの子犬は、そのように見える。
「行くぞ!」
真魚が走った。
「走るのか~」
嵐は仕方なく、真魚の後を追った。
「出すものを出せば、命は助けてやってもいい…」
木の裏で、若い男の声がしている。
「それが分からぬと言っておるのだ!」
女が叫んだ。
「私は、何も持ってはいない!」
女がそう付け加えた。
「だが、村にはなかった…」
「誰かが持って逃げたのだろう…」
男はそう考えているようだ。
「私が、それを持っているように見えるか?」
女の言う事は間違えてはいない。
剣の他には何も持っていない。
男の言う物が、どれだけの大きさなのか…
女はそれを知らない。
「お主らにはつきあえぬ…」
女がその言葉で動いた。
位置が分かっているかのように、一人の者に向かった。
そして、懐から龍笛を出した。
左手に剣、右手に龍笛。
追っ手の一人が刀を構えている。
女は真っ直ぐに向かう。
走りながら、女は龍笛の尻を咥えた。
しゅっ!
その瞬間、追っ手の頬に何かが当たった。
「生意気な!」
男がそう言って刀を構えた。
「なにっ…」
だが、女が方向を変えた。
今度は、別の追っ手に向かった。
女は正確に、その場を捉えている。
今度も同じように、距離を詰め龍笛を咥えた。
しゅっ!
追っ手の者の頬に、何かが触れた。
「虫に刺される方が、痛いわ…」
そう言って頬を触った。
かすかに流れる血。
頬が少し切れていた。
「あと、ひとり…」
女がつぶやいた。
「!」
その時、女が気付いた。
「新手か…」
女が戸惑っている。
「なんだ…これは…」
感じた事のない、大きな波動…
次の瞬間。
女は、その波動に向かって走っていた。
続く…