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空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その三十三





薺が緩やかな坂道を登っていく。

 


待ち遠しい。

 


心が騒ぎ、揺れている。

 



神の御心に触れたあの日。

 


気がついたら…



手の中に文があった。

 


その約束の日に、この坂を登っている。

 


目の前に人影が見える。





挿絵(By みてみん)




「ああ…」



薺の瞳から光が落ちる。

 



「こんな日が来るなんて…」



薺はこの時に、感謝していた。

 



「来たようだな…」



一度、繋いだ波動。



真魚が、その波動を感じている。

 



「薺…様…なの?」



明慧が、それを疑っている。


 


「よく分かったな…」

 


真魚が笑っている。

 


その明慧の姿を慧鎮が見ている。



 

姿はまだ見えない。

 



以前とは違う薺の波動。




大いなる神の御心に、触れたからだ。



 

「母上と似ています…」

 


明慧はそう答えた。

 



「なるほどな…」

 


その答えを聞いた真魚が、感心していた。 




「薺様が…耀いています」



明慧はそう感じた。

 


薺の感動の波動が、明慧には見えている。

 


その耀きを感じている。




人はそれぞれに目的を持つ。



生きている意味…

 


そう言ってしまえば、簡単かも知れない。



人は、その目的に近づくほど耀きを放つ。

 



薺は今、それを確かなものとして感じている。

 


耀きを放つ意味を、心に刻み込んでいた。

 



その心という器に閉じ込められた想い。

 


人はその器を揺らし、耀きを得る。



だが、それを感じ取れる者は少ない。

 


 

そして、その器を揺らすのは…



人霊(ひと)そのものなのだ。

 



「私も…心が揺れています…」


 

明慧がそう言った。

 



自らの心の動きは、薺の耀きに無縁ではない。




明慧はそれを感じ取っていた。

 



「大したものだ…」



真魚が笑っていた。

 


薺の姿がはっきりと見える。

 



目の見えない明慧が、それを観じている。


 


「薺様…」



揺れる心のままに…



明慧は薺の元に歩き出した。

 



「明慧!」


 

薺はその姿に溜まらず走り出した。


 

市女笠を捨てた。



 

付き人の少女が、それを拾っている。

 



明慧が笑っている。

 


薺の波動を感じている。

 



「明慧!」


 

薺が膝をつき、明慧を抱きしめた。



そして、泣いた。



涙が、明慧の着物を濡らしている。

 



「泣かないでください…薺様…」



明慧が、薺を抱きしめた。

 



「こんなに…こんなに大きくなって…」

 


薺は明慧の生命(エネルギー)を感じている。



その感動が広がっていく。




「あれっ…」



明慧がそれに気付いた。

 


「これは…」

 


薺が驚いていた。

 


「母上…」



二人を柔らかく包み込む光。

 


明慧がその波動を感じていた。



「姉上…」



明慧を抱きしめながら、薺が泣いていた。

 



「もう、いいのですよ…」



桔梗の波動が聞こえる。

 


その苦しみの全てを、桔梗が摘み取っていた。




「姉上…」



薺の涙は止まらなかった。

 



「これでいい…」



真魚がそう言って、笑みを浮かべた。

 



「ありがとうございます…」



慧鎮の目から、涙が溢れていた。

 




挿絵(By みてみん)





続く…



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