空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その三十二
桃尾山。
その頂上に真魚と嵐、そして、慧鎮がいた。
明慧は、寺で留守を守っている。
明慧の近くには、前鬼と後鬼もいるはずだ。
太陽が南にある。
木漏れ日が、巨石を照らしている。
真魚がその石を見ている。
手を当て、何かを探っている。
「この辺りか…」
鬼の角のような巨石。
真魚の背丈の倍ほどもある。
その根元の辺りを、真魚は手で探っていた。
「まさか、その岩の中に目当てのものがあるのか」
嵐が、真魚の行動を冷やかしている。
「不自然なのだ…」
真魚がそう言った。
「確かに佐伯様の言う事にも、一理あるが…」
慧鎮が、自分の考えを伝えた。
不自然ではあるが、人がどうこう出来る大きさではない。
慧鎮はそう言いたいらしい。
「天の智慧が古の都を照らす時…
閉ざされた光が…
全てを導くであろう…」
真魚が、その謎を解いている。
「天の智慧は太陽の光だ」
「そして、古の都の位置は南側にある…」
真魚が笑って嵐を見た。
「では、閉ざされた光とは何だ?」
嵐がそう言った。
慧鎮が先に、真魚の視線に気付いていた。
「祠…か…」
慧鎮がつぶやいた。
「だが、祠の中に祀られてあったものは…」
「盗まれて…」
真魚が懐から何かを出した。
「盗まれたものは関係ない…」
真魚が、それを慧鎮に見せた。
「鏡…確かにそう伝えられている」
慧鎮が真魚にその事実を告げた。
「そうだ、何があったかが問題なのだ…」
真魚がそう言いながら、祠の扉を開いた。
中を覗き込んでいる。
真魚は少し考えた。
そして、祠の前の小さな岩に目を付けた。
光がその岩を照らしている。
その岩の上に鏡を置き、様々な方向を試していた。
「思った通りだ…」
そして、光の反射する先を決めた。
真魚が探っていた岩を、鏡の光が差していた。
「む、無理矢理ではないのか…」
嵐が疑っている。
「いや…そうかもしれない…」
慧鎮が真魚の考えに頷いていた。
「その岩の中に、どうやって入れるのだ」
嵐が真魚にその事実を確認している。
「お主には出来ぬのか?」
真魚が嵐に言った。
「俺は、神だぞ!出来ぬことなぞない!」
嵐がいつものように答えた。
「そう言うことだろう…」
真魚がそう言った。
「まさか…」
慧鎮が驚いていた。
「下がってろ…」
真魚がそう言って棒を構えた。
その波動が大気を揺らしている。
細かい振動が皮膚をくすぐる。
はっ!
真魚が棒を横に振った。
どおぉおん!
巨石が、根本で折れた。
その勢いで、斜面を転がって止まった。
岩の中には小さな空間があった。
その中に黒い箱が見えた。
手の平二つ分。
それほど大きくはない。
「これは…まさか…」
慧鎮は驚いていた。
それがあったことにではない。
これは、真魚にしか出来ない。
真魚が来ることを、予言したとしか思えない。
その事実に、慧鎮が驚いていたのであった。
真魚が箱を取り、蓋を開けた。
中には炭が敷き詰められていた。
「闇の中の光か…」
真魚は笑みを浮かべ、そこにある巻物を取った。
手の平ほどの小さな巻物。
それを開くと文字が並んでいた。
「これは、天竺の文字…」
慧鎮がそれを見て言った。
だが、慧鎮には何のことだか分からない。
行基の考えは分からなかった。
慧鎮が分からぬものは、他の者にも分からない。
「なるほど…そう言うことか…」
真魚だけが、笑みを浮かべていた。
「お主のそういう顔は久しぶりだのう…」
その顔を見て、嵐が呆れていた。
「これは…なんでしょう?」
慧鎮が恐る恐る真魚に聞いた。
「この世の理だ…」
真魚が笑って、そう言った。
続く…