空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その三十一
原生林に光が射しこんでいる。
木漏れ日が、地面を照らしている。
その光の中に薺が横たわっていた。
そして、その横に真魚が座っている。
既に真魚は目を瞑り印を組んでいる。
そして、側に置いてあった五鈷鈴を鳴らした。
ちりりぃぃぃん
その音色が、次元の膜を揺らす。
天からの光と融合して行く。
「美しい…」
目を閉じた薺が言った。
金色の光が舞い降りて来た。
「ああ…」
目を閉じた薺の目尻から、光が溢れた。
薺が真実に触れた証だ。
横たわる薺が手を広げている。
初めて雪を見て喜ぶ子供の様に…
心が喜びで揺れている。
「ああ…」
薺が、光を両手で抱きしめた。
胸元に重ねた手を乗せた。
「姉上…」
その光の先に、桔梗が見えた。
その桔梗が笑っている。
「私達のした事は、間違っていました…」
桔梗が微笑みながら言った。
「全ては…私が…」
薺が、それを否定した。
死んだ桔梗には何も出来ない。
布留の言を施したのは、薺であった。
「私が、拒むこともできたのです…」
「だが、惹かれてしまった…」
桔梗が言った。
「あの子の未来は、自らで拓かなくてはなりません…」
「それが、人としての約束です」
桔梗は薺に言った。
「私の死は…」
「あの子が強く生きる為には、必要であったのです…」
桔梗はその事に触れた。
「姉上、間違いを犯したのは私です…」
その薺に、光の粒が話しかけた。
言葉ではない。
薺が涙を流していた。
「そうよね…私が、悪いの…」
薺はそう言って泣いた。
光を抱きしめて泣いた。
「あるとしたら、これだけだ…」
真魚が指先でつまんで見せた。
複雑に絡み合った想いの糸。
その中から、真魚がそれを見つけ出した。
「それは…」
薺が驚いていた。
「これがなければ、成功していたかも知れぬ…」
その糸の先には、薺の想いが繋がっている。
その想いへの執着が、呪の力を曲げた。
「私は…」
「あの方に愛されている姉上が、羨ましかったのです…」
薺は全てを認め、受け入れた。
おとめらが
そでふるやまの みずがきの
ひさしきときゆ
おもいきわれは
その詩の中に、薺の想いが溢れていた。
袖振る先に、想いを寄せる人がいた。
真魚は、その事に気付いていた。
「切ってもよいのか…」
真魚が薺に聞いた。
「はい…」
薺がその糸を手に持った。
そのまま、手を胸の上に重ねた。
真魚が地面に手をついた。
七色に身体が耀き、その光が全てを包み込む。
どどどどどどっど~
地面が、その波動で揺れている。
寝ている薺の周りが光に包まれた。
薺の胸が耀いている。
「うっ…」
薺が一瞬、苦しんだかに見えた。
薺の胸から、耀く剣の切っ先が出た。
それは、光を放ちながら、薺の身体を貫いた。
そして、宙に抜け、舞った。
手にした糸が、切れて消えた。
布都御魂剣。
薺が手を広げた。
薺を照らす神の光。
その御心に触れ、薺は泣いていた。
溢れる涙を止めることなど…
今の薺には…出来なかった。
「布都御魂大神…」
その先に、偉大なその神の姿を見ていた。
続く…