空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その三十
闇の中に鈴の音が響いている。
その鈴の音の合間に、人の声が聞こえる。
ひと
ふた
み
よ
いつ…
ふるべ
ゆらゆらと
ふるべ…
鈴を鳴らしながら…
五人の人影が、円を描くように歩いている。
巫女の舞。
そのようにも見える。
その中心に一人。
女が座っていた。
薺であった。
その前に横たわる人影。
それは紛れもなく、薺の姉、桔梗だ。
薺が座って手を合わせている。
その身体が耀いて見える。
薺の生命が横たわる桔梗を包み込んでいる。
む
なな
や
ここの
たり
ふるべ
ゆらゆらと
ふるべ…
鈴の音の波動が、次元の膜を揺らす。
布留の言。
死者蘇生の言霊であった。
座っている薺の身体が、七色に輝いた。
薺の生命が、膨れあがる。
眉間に皺を寄せ、薺が必死に耐えている。
苦痛か、快楽か…それは分からない。
一瞬、薺の身体が弾けた。
背中を鞭で打たれたように、仰け反った。
そして、崩れ落ちるように…
薺と桔梗…
二人の身体が重なった。
「薺様!薺様!」
巫女の一人が、身体を揺すった。
だが、薺の意識は戻らなかった。
「姉上!」
翌朝、目を覚ました時、その事実を知った。
悲しみが全てを包み込んだ。
自らの霊力をもってしても、その願いは叶わなかった。
ほどなく、桔梗の亡骸は埋葬された。
身体に変化が起きたのは、その七日後の事であった。
「ここでございます…」
薺に案内され、真魚達はその場に来た。
布留のお宮の奥の森。
原生林に囲まれたこの場で、儀式が行われた。
「なるほどな…」
真魚はその霊気に感心していた。
「ここであれば、可能かも知れぬ…」
真魚はそう言って、笑みを浮かべた。
真魚が見ておきたいと言ったのは、この場であった。
場は非常に重要である。
場が乱れることは、雑音の中で話をするようなものである。
よほどの力がない限り、繋げる事は容易ではない。
「何か仕掛けておるな…」
嵐がそう言った。
「やはりそうでしたか…」
「一度見た時に、おかしいとは思いましたが…」
「神の犬を、姉上が畏れておりました…」
薺は嵐を見てそう言った。
「あるものは、使わせてもらうか…」
真魚が森の中を探っている。
「あるものとはなんだ?」
嵐がその言葉に食ってかかる。
「あるものは…あるものだ…」
真魚がそう言って笑みを浮かべていた。
続く…