空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その二十八
桃尾山に夜が訪れていた。
木々の間から、星が見えている。
星空の僅かな光が、地上を闇にしている。
その闇に、蛙の鳴き声が響いている。
ここにいるよ…
そう言っている。
求め合うものは、引き寄せられる。
だが、触れ合うまではわからない。
真の理由は、分からないものだ。
「人も、蛙も同じか…」
宿坊で、真魚が笑みを浮かべていた。
灯台が一つ灯っている。
その灯りに虫が集まっている。
明慧…
慧鎮…
桔梗…
薺…
絡み合った心の糸。
全てが解決したわけではない。
「なあ、真魚よ…」
薄明かりの中で、嵐の声がした。
「なんだ…」
真魚が笑みを浮かべている。
「嫌な…気配がするぞ…」
嵐が、その事実に気付いた。
「…」
一瞬、間があった
ぷっは~ははっはは~
下品な笑い声。
息を止めたあとの馬鹿笑い。
それが、さらに…妙な場を創り上げた。
がたっ!
宿坊の扉が開いた。
「先に、お主に気付かれるとはのう」
後鬼がそう言って入ってきた。
「媼さんが笑うからじゃぞ…」
前鬼がその後ろにいる。
「お主ら!仕事は片づいたのか…」
寝転がった嵐が、片目を開けている。
「だから来たのであろうが!」
後鬼が、その嵐を睨んでいる。
「こちらも動きがあったようですな…」
後鬼が真魚に向かって言った。
「収穫はあったようだな…」
真魚が笑っている。
「薺という女が、あれを使ったようじゃ…」
前鬼が、真魚に考えを伝えた。
「ほう…」
真魚がその話に反応を見せた。
驚きもせず、それを受け入れた。
「ま、未熟な上に、起きた悲劇…」
「そんなところかのう…」
後鬼がその後に続けた。
「あれとは何じゃ?」
嵐だけが置いて行かれている。
「おや、お主は知らぬのか?」
後鬼が嵐の足下を掬う。
「知らぬ!」
嵐が起き上がって座った。
「俺には、必要ない…」
「だが、明慧には関係あるのだろう…?」
珍しく、嵐が人に寄り添っている。
以前の嵐では考えられないことだ。
「お主がのう…人の心を…」
後鬼が笑みを浮かべている。
「では、その心に免じて教えてやろう…」
後鬼が、腰に手を当ててのけぞった。
嵐に対する勝利の構えだ。
「布留のお宮に伝わる呪じゃ…」
前鬼がその隙を突いた。
「これはうちの手柄じゃぞ!」
後鬼が前鬼を睨み付けた。
「なるほどな…」
真魚がつぶやいた。
「真魚殿、そのお顔は…」
後鬼が、真魚を見て呆れていた。
「媼さん!やはり儂らは無駄足だったのう…」
「やはり、気付いておりましたか…」
そう言いながら前鬼が笑っていた。
「いや、そうでもない…」
「おかげで、おおよその見当は付いた…」
真魚が前鬼と後鬼に言った。
「だが、まだ気になることがある…」
そして、その事を二人に告げた。
続く…