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空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その二十七





真魚は寺の中を抜け、水汲み場に向かっていた。

 


その視線の先に、嵐と明慧が見えた。

 


明慧が呆然と立ち尽くしている。

 


「さっきからあのままじゃ…」



子犬の嵐が見守っていた。

 



挿絵(By みてみん)




ほんの数日。

 


僅か十歳の少年に起きた様々な出来事。



それは、人の生涯全てに相当するかもしれない。

 


それを明慧は、必死に受けてめていた。

 



今はまだ生命(エネルギー)の余韻に浸っている。

 


魂はまだ完全に戻っていない。

 




その様子を見ていた真魚が、



不意に地面に座り、棒を横に置いた。

 

 


五鈷鈴を出し、右手で手刀印を組んだ。

 


真魚の身体が、耀き始める。

 



ちりりぃぃぃぃん




その音色が寺に響く。

 


波動が、次元の膜を揺らす。

 



明慧の身体が一瞬震えた。

 



その波動が明慧に触れ、抜けて行った。

 


「ああ…」



明慧が声を上げた。


 

明慧の周りに金色の光が舞っている。

 


「ああ…」



明慧が涙を流している。


 

その光に触れたからだ。

 


その手の中の光に、向き合っている。

 



それは、純粋な生命であった。

 


この世の全てと言って良い。

 


明慧はその光に触れ、泣いていた。

 


明慧の全てを感動が包み込んでいた。 

 



ちりりぃぃぃぃん




真魚が二度目の音色を立てた。

 


それで、明慧が気付いた。

 



「佐伯様…?」

 


「これは!これは!」

 



明慧は、この世界そのものと向き合っている。

 



その光に身を委ね、震えている。

 



明慧がその心に、何を刻んでいるのかは分からない。

 



だが、それは明慧の心の礎となる。



その心を、真実に触れた魂が揺らす。

 



心は混ざり合い、生命の波動を生み出す。

 


そして、明慧そのものにそれが刻まれるのだ。

 



生きた証。

 



人はそれを求め、彷徨い、歩く。


 

確かなものを、求めて彷徨う。

 



だが、この世で起きることは全て幻想である。

 


五感で生み出した、仮想の現実なのだ。


 


人それぞれに五感の感度は違う。

 


見え方も…

 


音も…

 


味も…



これが何を意味するのか…



それは、皆が違うものに触れていると言う事実だ。

 

 


人は取り違えている。

 


この世で起きることの意味。

 



人それぞれに目的がある。




人と同じである必要は全くないのだ。

 


色や味を共有するのではない。

 



感動を共有するのだ。



 

自らで生み出した生命(エネルギー)を共有する。


 

そこに、真の目的があるのだ。





そして、明慧は気付いた。

 


真魚が鳴らした五鈷鈴の意味を。

 



「私は間違えておりました」

 


「音色は…関係ないのですね…」



「私は幼き頃より、人と同じように見たい…」



「そう思っておりました…」

 


「でも、それは有り得ない事なんですね…」



「その必要すら…ないのですね」



「なぜ、その事に気付けなかったのでしょう…」 

 


明慧は涙を手で拭った。

 



「気付いたではないか…」

 


真魚が笑っていた。

 



「出来ぬ事で開く扉もある…」

 


「やらなければ、それも分からぬ…」



真魚はそう付け加えた。

 


「そうですね…」



「私の見えないこの目が…導いてくれたのですね…」

 



明慧が全てを受け入れた。




突然…



明慧の中で、何かが耀き始めた。




「ほう…」



真魚が笑みを見せた。



「やるではないか…」



嵐が感心している。




光が、明慧を満たし、波動を生み出している。




その波動が、次元の膜を揺らしていた。




挿絵(By みてみん)




続く…





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