空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その二十四
宿坊に真魚と慧鎮が、向き合って座っている。
慧鎮は、真魚の洞察力に驚いていた。
そして、諦めたように、全てを話し始めた。
「明慧の父は私でございます…」
慧鎮はその事実を認めた。
「明慧の目が見えぬことで、全てが変わりました…」
「穢れか…」
真魚が、慧鎮の言葉の意味を読み取った。
「神に関わる家から、そのような者が出るのはふさわしくない…」
「どうせ、そんなところであろう…」
真魚がそう言って笑っていた。
「その通りでございます…」
慧鎮は真魚の洞察力に舌を巻いた。
「明慧は、家系から抹消されました」
「明慧の面倒は、妹の薺が桔梗と一緒に見ておりました」
「桔梗は元々身体が弱く…その事があって、ほどなく…」
「心労で亡くなりました…」
慧鎮の痛みが真魚に伝わっている。
「貴族を捨てたのか…」
真魚はすでに気づいていた。
「ほとほと…嫌気が差しました…」
「神に仕える者が、頂いた命を受け入れないなど…」
「私には理解出来ませぬ…」
「それで、明慧を連れてこの寺に来たのか…」
真魚は、慧鎮の思いを受け入れていた。
「明慧のあの才能を見るまでもなく…」
そして、真魚はその事実に呆れていた。
「父を名乗らなかったのはなぜだ…」
真魚は慧鎮に聞いた。
「桔梗の願いです…」
「明慧を強く育ててくれと…」
「それは、私も同じ考えです…」
慧鎮は桔梗を思い、目を伏せた。
「なるほど…」
真魚は考え込んだ。
「桔梗の気配を、感じておろう…」
「それが、明慧の言う薺だ…」
真魚の問いに慧鎮が驚いた。
「すると…あれは…」
慧鎮が感じた桔梗の波動。
その感覚に間違いはなかった。
その事実が、慧鎮の心を揺らしている。
「たった今、明慧と逢っている…」
真魚は慧鎮を見た。
「そ、それは…桔梗として…」
慧鎮はそれが気になった。
桔梗に逢いたい。
それは、慧鎮も同じ思いであった。
「目を閉じて、心を開け…」
真魚は慧鎮にそう言った。
慧鎮は素直に従った。
真魚が五鈷鈴を出し、鳴らした。
ちりりぃぃぃぃぃぃん
その波動が寺の中に響いていく。
次元の膜を伝わっていく。
それは、真魚の波動の一部でもある。
慧鎮の心が広がっていく。
鈴の音の波動に導かれ、慧鎮は飛んでいく。
「ああ…」
慧鎮が声を上げた。
その先に、二つの光が見えた。
続く…