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空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その十五






真魚は後鬼が記した地図を元に、何かを調べていた。

 


「人間というのは暇なのか?」



嵐が真魚にそう言った。

 


「大事なものなら、そのまま手渡せばよかろうに…」



嵐がそう言うのも一理ある。

 


「隠す必要はないだろうが…」



真魚がそう言って笑っている。

 



挿絵(By みてみん)





「捨てられて、困るものかも知れぬぞ…」



真魚は嵐に言った。

 



「どういうことだ、大事なものが捨てられる訳がなかろう」



嵐は、真魚の言っていることがよく分からなかった。



 

「だから、捨てられそうなものだということだ…」




「俺にはよく分からぬ、簡単に言ってくれ!」



嵐は短気である。

 


「ただ一枚の紙切れ…とか」



「子供の落書きみたいなものとか…」



「そんなとこだろう…」

 


真魚は嵐を見て笑みを浮かべた。

 



「子供の落書きは、捨てるかも知れんのう…」




「だから、隠したというのか…」



嵐が真魚の答えに頷き、納得していた。

 




「だが、観る者にとっては、それが意味を持つのだ…」



真魚はそう考えていた。

 


「義淵殿の為に、玄昉殿が持ち帰り、行基殿が隠したとなると…」

 


真魚の興味はそこにある。




「お主なら、見てみたくなるはのう…」



嵐は真魚の事は分かっている。


 


「それで、だいたいの事は分かったのであろう…」



嵐が真魚の顔色を伺っている。

 



「だいたいのことはな…」



「だが、妙なこともあるのだ…」



真魚が笑みを浮かべている。


 


「妙なことは、お主の中にあるのではないのか」



嵐が真魚を疑っている。

 


その微笑みのおかげで、何度も危ない橋を渡っているからだ。

 


「ま、それは…それだ…」



真魚が嵐を見て言った。






 

慧鎮は嵐の食べっぷりに驚いた。

 


嵐は宿坊の近くまで来ると、その臭いに気付いた。

 


それが、嵐の食欲に火を付けた。

 


明慧が拵えた大量の汁を、難なく平らげた。

 


「ほら、心配なかったでしょ」



明慧が自慢していた。

 



「これで、しばらくは保つ…」

 


嵐は満足げに寝転んでいた。

 



「食べて直ぐ寝ると牛になるぞ…」



真魚が笑っている。

 


「神は牛にはならぬ…絶対にな…」



嵐がそう言って目を瞑った。

 



「だが、明慧の作る物は何でも美味いな…」



「お主には、味の才がある…」

 


嵐が片目を開けた。

 


「醬ひしおを少し入れてあります、本来は付けるものですが…」



「大切なものなので、少しだけです」




「今度、私も醬を作って見ようかなと思っています」



「沢山使えればもっと美味しくなる筈です」



明慧が味の秘密を明かした。




「も、もっと美味くなるのか!」



嵐が味を想像して、舌なめずりをした。

 



「沢山出来れば、売れば良い…」



真魚が明慧に言った。

 



「そ、そうですね!それは気がつきませんでした!」



「そうすれば、少しはこの寺も潤いますよね、慧鎮様」

 


明慧は、役に立てることがうれしいようであった。

 



「売るより先に俺に食わせろ!」



嵐はそれが気に入らないようだ。




「勿論、嵐様の分は取っておきます」



明慧が嵐の機嫌を伺っている。




「それなら構わぬぞ…」



嵐が納得して眠りに就いた。



だが、本当に眠っているかは怪しいものだ。




「一つ聞きたい事があるのだが…」



真魚が慧鎮に話しかけた。

 



「何でございましょう…」




「この山に精霊とかはいるか?」



真魚が妙な事を聞いた。

 



「精霊…ですか…」



慧鎮は考え込んだ。

 



「妖怪でも構わぬぞ…」




「よ、妖怪でございますか…」



慧鎮は困り果てていた。

 



「佐伯様はなぜ、そのような事を…」



明慧が気になって話に割り込んだ。

 



「何か…足らぬ…そんな気がするのだ…」


 

「何かが一つ…」



真魚が明慧に言った。

 



だが、理由はそれだけでは無い。



真魚が何かを感じていることは確かであった。




「言い伝えならございます…」



慧鎮がその事を思い出した。



「ほう…」 



「それは、どのような…」



真魚が興味を抱いた。

 



挿絵(By みてみん)





続く…







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