空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その十四
桃尾山の上は、霊気に包まれていた。
「ここに何かがあるのか?」
嵐の問いかけにも耳を貸さず、真魚は何かを捜していた。
「あるような…無いような…」
真魚はそう言って地面に腰を下ろした。
心地良い風が駆け抜けた。
「そう焦る必要も無い…」
「気付いているのは俺だけだ…」
「それに、他にも仕事ができたしな…」
真魚は下界の景色を見ていた。
向かいには生駒の山、左手には葛城山、その奥に金剛山が見えている。
「これだけのものをあっさりと捨てるのだ…あの男は…」
真魚はそう言って笑っていた。
「確かに…お主の言う事は間違ってはおらぬ…」
くしゅん!
嵐が、その言葉と同時にくしゃみをした。
「どうした…珍しいな…」
真魚が笑っている。
「誰かが俺様の武勇伝でも、話しておるのであろう…」
嵐が寝転んでそう言った。
「その話を聞きたいものだな…」
真魚が嵐をからかった。
「だが、これは良い機会かも知れぬ…」
真魚はそうつぶやいた。
「京の都は始まったばかりだ…」
真魚が笑みを浮かべていた。
明慧が水を運び終えると、薺の気配が消えていた。
「すぐに消えるんだな、薺は…」
「ひょっとして、佐伯様を見に行ったのかな…」
明慧は、薺の様子をそう感じ取っていた。
明慧はその水で朝の食事を作り始めた。
今の時間、他の者は寺の掃除を行っている。
明慧はその間に、朝の食事を作る事になっている。
勿論、一人で行うことはない。
誰かが交代で炊事を受け持つ。
「今日は、英鎮様ですか?」
明慧より5つほど年上の英鎮が今日の当番のようだ。
「相変わらず、明慧はすごいな…」
英鎮は明慧に呆れていた。
「見えぬお前がどうして、ここまでわかるのだろう」
英鎮は明慧に感心しながら野菜を刻んでいる。
「見えないけれど、見ようとしていますよ」
明慧はそう答えた。
「見えないけれど、見ようと…か」
「それは真似できないな…」
英鎮はため息をついた。
「見えることが邪魔をする事もある…」
「そう言いたいのか…お前は…」
「でも、誰かに手を貸して頂かなければ、生きては行けません」
明慧がその事実を英鎮に告げた。
「それは、俺だって同じだ、皆足りないものがある…」
「それだから、人は支え合えるのではないか?」
英鎮はそう言った。
「すごいですね、英鎮様…」
「その言葉は耀いています…」
明慧は英鎮の言葉の耀きを見逃さなかった。
「俺がどんなに美味いものを作ろうと思っても…」
「明慧には敵わ…」
そこまで言いかけて英鎮の顔色が変わった。
「どうなされました、英鎮様?」
その声の調子を、明慧は感じ取った。
「明慧、今日の汁、ちょっと多すぎないか?」
英鎮が、明慧が作っている量に疑問を抱いた。
「きっと大丈夫です…」
「食いしん坊な嵐様のことですから…」
明慧がそう言って笑っていた。
続く…