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空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その八






真魚達は宿坊に通された。

 


「行基様の頃はお参りに来る方も多かったようですが…」



「今はこの通りです…」

 


慧鎮は、現在の寺の状況を、それとなく伝えている。 





挿絵(By みてみん)





「だが、この部屋は掃除が行き届いている…」



真魚はこの事実の意味を感じていた。


 


「これは、行基様の意思でございます…」



慧鎮は真魚にその事を告げた。



「行基殿の意思…」



「来る者は拒まず、去る者は追わず…」



真魚は独り言のようにつぶやいた。

 



「お聞きしてもよろしいでしょうか?」



慧鎮が改めて真魚に言った。


 


「俺が来た理由か…」



真魚はその事を感じていた。

 



「これだけの霊気、使わぬ手は無いぞ…」





「それは、どういうことでしょう…」



真魚の言葉に慧鎮が戸惑った。




真魚が見たのは、未来の話だ。

 


後に、空海となった真魚がこの寺を再建する。




慧鎮にはその未来が理解出来ていない。

 


それはまだ始まったばかりだ。

 



「行基殿は、何の為にここを開いたのだ」



真魚は行基の心を感じている。

 



「私にはよく分からないのです…」



「一度、この寺は栄えました…」



「それは、義淵様と行基様のお名前が、そうしたのでございましょう…」

 


「今はこの通り…この広さを持て余しております…」



慧鎮は行基の心を量りかねていた。




「それすらも行基殿の意思だとしたら…」



「明慧はどう思う」



明慧にその答えを求めた。

 



「佐伯様が、先ほど篩いとおっしゃいました」



「残された者達は選ばれたのです」



「私はそう思っております」



明慧は真魚にそう答えた。

 



「俺もそう考えている…」



真魚が慧鎮を見ていた。

 



「力がないから、いるわけではなかろう」



真魚は改めてそう言った。


 


「何か…意味があると言う事なのですか?」



慧鎮は真魚の言葉に驚いていた。

 



「お主はまだ、気付いていないようだが…」



目上である慧鎮に、真魚は言った。

 



「玄昉殿は義淵殿には会えなかった…」



「玄昉殿が唐から持ち帰ったのは、一切経だけであったのか?」



真魚は慧鎮にその答えを求めた。

 



「そ、それは…」



慧鎮の身体が震えた。


 


「俺ならば…隠してでも持ち帰る…」



「師、義淵に見せたい物があるならな…」



真魚がそう言って笑った。

 



「佐伯様が、捜しているのは…」



慧鎮にもその事実が見えて来た。

 



「あるかも知れぬし…無いかも知れぬ…」



真魚は笑っている。

 



「この男が無いものを、捜しに来るわけがなかろう…」



足下から声がした。

 



「嵐様は、そうお考えなのですか?」



明慧は子犬の嵐を見ていた。

 



「い、犬が喋ったのか…」



慧鎮が、言ってはならぬ言葉を口にした。

 



「犬ではない、俺は神だ!」



子犬の嵐がそう言った。

 


「か、か、か、神!」



慧鎮の驚きようは滑稽であった。




「俺の連れだ…」

 


ぐうううううぅう~

 



「そんな話はどうでも良い、俺は腹が減った」

 


嵐が喋る理由がそこに存在した。




「この辺りの霊気でも、食っておればよかろう…」



真魚は嵐にそう言った。



「邪気をこっそりと頂いておったが、固いものが恋しくなった」



欲望の理由を饒舌に語る。

 



「嵐様は、霊気を食べるのでございますか」



明慧がその事に興味を持ったようだ。

 


「妖怪や物の怪、邪気…鬼も食うかのう…」



嵐が自慢げに語る。

 


「それは、すごい…」



「私は、そのような物を見たことはありませぬ…」



明慧が、嵐の話を楽しんでいる。




「雑魚ならその辺にうようよおるぞ…」



「だが、そんなものは腹の足しにはならぬ…」




「そんな…」



嵐の言葉で、慧鎮の思考回路から煙が出ている。


 


「慧鎮様、私が食事の用意をしてもよろしいでしょうか?」

 


明慧が、混乱している慧鎮に声をかけた。

 



「あ、ああ…頼む…」

 


嵐を見つめたまま慧鎮は返事をした。

 



「これが、神…」



見た目は子犬と変わらない。

 


慧鎮が初めて見る神の姿だ。



その事実が慧鎮を混乱させている。

 



「言っておくが、これは仮の姿だ」

 


嵐が慧鎮を見て言った。

 



「仮の姿…」

 


その中には大いなる力が閉じ込められている。

 


慧鎮には理解出来ないだろう。

 


「いずれ分かる…」



真魚がそう言って笑っていた。




挿絵(By みてみん)





続く…







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