空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その七
苔の生えた緑の石畳。
明慧は真っ直ぐに歩いて行く。
「慧鎮様、お客様をお連れしました」
そして、慧鎮に向かい言った。
「これは、珍しい、客人とは…」
慧鎮は真魚の顔を見た。
真魚よりも十歳ほど年上であろうか…
鼻筋が通り、すっきりとした顔立ちの男であった。
体つきもしっかりとしており、それなりの筋肉も備わっている。
「こちらは、佐伯真魚様でございます」
明慧が振り向いた。
見えないようでも、真魚の位置は把握している。
真魚の波動を感じているからだ。
「私は、この寺の住職をしております、慧鎮でございます」
慧鎮は丁寧に挨拶をした。
「滝で明慧を見かけたので案内してもらった…」
真魚が慧鎮を見た。
「佐伯様に光を見せて頂きました」
明慧はうれしそうに慧鎮に言った。
「光…?それは…」
慧鎮が怪訝な表情を浮かべた。
明慧の言った言葉が理解出来ないようだ。
従来…
それは、修行を積んだ者にしか、見えない世界とされている。
だが、それは大きな間違いである。
生まれながらに感じる者もいれば、突然目覚める者もいる。
見たり感じたりすることに関しては、修行は関係ない。
修行とは本来、別の目的でするものだ。
そして、固定概念に蓋をされた者は、決して目覚める事はない。
こうしなければならない…
こうでないといけない…
そんなことは全くない。
その思い込みが、自らの道をふさぐのだ。
道や形は無限に存在する。
宗教が、数え切れないほど存在するのはそういうことだ。
「明慧が見たのは、理の一部だ…」
「明慧には才能がある…」
真魚は慧鎮に言った。
「私には、霊力は備わっておりませぬ…」
慧鎮はそう答えた。
「代々、この寺はそういう者で繋いでおりました…」
「しかし、それは行基様の意思だったようです…」
「その答え…佐伯様にはおわかりでございましょう」
慧鎮は真魚を見た。
「篩いだな…」
真魚はそう答えた。
「見事でございます…」
「霊力ばかりを求める者は、真実に辿りつくことは出来ぬ…」
「それが、行基様のお考えだったようです…」
慧鎮は自らの力不足をそう捕らえていた。
「行基殿らしい…」
真魚は笑みを浮かべた。
「だが、力がないからここにいるわけではなかろう…」
真魚はそう言って慧鎮を見た。
「佐伯様…あなたはただの貴族というわけでは…」
慧鎮の表情が変わった。
「それには気付いておらぬようだな…」
真魚が慧鎮を見た。
「ど、どういうことでございましょう?」
慧鎮は自らの心を見られているような気がした。
「そのうちにわかる…」
真魚が、微笑んで明慧を見ていた。
続く…