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空の宇珠海の渦 第七話 揺れる心 その二







真魚達は登ってきた道から逸れ、脇道に入った。

 

道の側の清らかな流れが誘っている。



「あの女…」

 

子犬が何かを疑っている。

 



「それを確かめに行く…」


真魚がそう言って上に向かった。

 



挿絵(By みてみん)





水が激しく音を立てている。

 


布留の滝。



現在では桃尾の滝と呼ばれている。




その音を手前の建物が隠そうとしていた。



滝守の小屋であろうか。

 


木の板を張られた粗末な物であったが、最低限の生活は出来る様だ。

 

 

滝の前には注連縄が張られ、仕掛けが施されている。

 



「なるほどな…」

 


真魚は滝の遙か手前で、それを感じとっていた。

 


大地の生命(エネルギー)が溢れ出ている。

 



「龍の抜け穴か…」



真魚はそう表現した。


 

大地の中を駆け巡る生命の繋がり。


 

その途方も無い生命の動きを、龍に例えたのだ。


 

義淵(ぎえん)殿が見つけ、行基(ぎょうき)殿が広げ…」

 


真魚が目を瞑り、手を動かしている。

 


仕掛けをなぞっているように見えた。

 



この場を見つけたのは義淵だが…



弟子の行基が手を入れたことは、間違いないだろう。


 

真魚の手が止まり、目を開けた。


 


「ほう…」


真魚は張り巡らされた網の目の中に、何かを見つけた。

 



「お主を騙すとは面白い奴だ…」

 


子犬が真魚を見て笑っていた。



 

「騙した訳ではなかろう…」



真魚は笑みを浮かべ、歩み出した。

 



「俺も行くのか?」



子犬が波動を嫌っている。


 


「もう入っているではないか…」



真魚が笑っていた。


 

子犬の足が見えない壁を抜けていた。




「相変わらず…食えぬ奴だ…」



その言葉とは裏腹に、笑みを浮かべている。

 



真魚の手の動きは、以前見た鬼の技だ。



それを思い出していた。



子犬は駆け足で、真魚の後を追った。

 







真魚は石段を登り滝に向かった。

 


清き流れの中に、人がいた。

 



印を組み、真言を唱えていた。

 


ノウマクサンマンダバサラダン…

 


不動明王の真言である。

 


真魚はしばらく黙って見ていた。

 



真魚が左手で手刀印を組んだ。

 


目を瞑り、自らの回路を開いた。

 


真魚の身体が耀き始めた。

 



その光が、滝の者を包み込んでいく。

 



その瞬間、小さなその身体が震えた。

 


男の子であった。


 

齢十二、三歳と言う所か…


 


真魚の光に包まれ、笑みを浮かべた。

 


真魚の身体が更に耀く。

 



男の子の眉間に皺が寄る。

 


全てを受け入れ、耐えている。

 



そんな表情に見えた。

 



次の瞬間、男の子の身体が震えだした。


 


肩が揺れている。

 



男の子は泣いていた。

 


大いなる光に触れて、泣いていた。

 



しばらくその時は続いた。


 


男の子は笑みを浮かべ目を開けた。

 



しばらく辺りを見渡している。

 



だが、真魚達の存在に気がつかない。

 


真魚が棒を地面に置いた。

 


その音が地面を這った。

 



男の子の顔が真魚を向いた。

 



「目が見えぬのだな…」



真魚がその事に気付いた。

 



「あなたが…光を見せてくれたのですか?」



その男の子が言った。

 



「見たのは、お主だ…」

 


「見ようとしない者に光は届かぬ…」

 


真魚がそう言って微笑んだ。


 

「私は、明慧(みょうけい)と言います」

 


その声は興奮していた。

 



「俺は佐伯真魚だ」

 


真魚が答えた。

 


「佐伯…真魚様…」

 


その名前に惹かれた。




理由は分からない。




そして、明慧は真魚に自らの未来を見ていた。

 



時間は関係ない、心がそう言っている。


 

自らの心に嘘はけない。

 


確かなものがそこ存在していた。  





挿絵(By みてみん)




続く…





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