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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その三十六



未羽が気がつくと、目の前に大地があった。 



「ここは…どこ?」



倭では無いことは分かっている。

 


豊かな自然と溢れる生命の耀き。

 


それが、全てを伝えていた。




挿絵(By みてみん)





「蝦夷だ…」


 

真魚が言った。


 


「これが…蝦夷…」



未羽は、信じられなかった。

 



人々が生き生きとしている。

 



「倭の支配は、ここまで及ばぬ…」

 


真魚が言った。


 


「それだけで…こんなに違うの…」


 

未羽は目の前の事実に、心が痛んだ。

 



蝦夷についての知識。

 



それが、大きな間違いであった事に気付いていた。

 




「倭は支配するために…」



直人もその事実に気付いた。



 

「多くの人が死んだ…私の父も…」



未羽は、拳を握りしめていた。

 



「だが、ここで…生きるという手も、あるのだぞ…」



嵐が二人に言った。

 


「ここで…」



溢れる生命の耀きを、未羽は見ていた。

 



「翔の奴も驚いていたぞ…」

 


真魚が未羽に言った。

 



「あ、兄がこれを見たの!」



未羽が思わず声を上げた。

 



「心配するな、奴は頭がいい…」

 


「見た瞬間に全てを見抜いた…」

 


嵐が未羽に言った。

 



「違うの、兄はきっと倭を…」



未羽の畏れは、まだ起きてはいない。

 


人は、起きてはいないものに畏れ、不安を抱く。

 



「未羽…お主らは何の為に生まれてきたのだ…」



嵐が二人に問うた。

 


恐らく、それは青嵐の言葉である。

 


未羽が振り返り直人を見た。




「それは…」



未羽は、言いたいことを言えなかった。

 



「生命は耀かねばならぬ…」

 


真魚が言った。

 



「耀く術を…求めているの?」


 

未羽が真魚の言葉を、そう受け取った。



 

「耀く術…そうなんだ…」



「俺にとって…未羽は…」



「俺は未羽が、好きなんだ…」



思いがけない直人の言葉。

 


その言葉が、未羽の心を駆け抜けた。

 



直人が、未羽の肩に手を乗せた。

 


未羽がその手を握りしめた。

 


その温もりが切なかった。



手を離すと消えしまう…



儚い温もりが、愛おしかった。




「私も…大好き…」



未羽の瞳から光が溢れた。

 



絶対に結ばれることはない、と思っていた。

 



してはいけないことだと教えられた。

 



だから、その想いを、心の奥に仕舞い込んだ。




「耀いていないのか?お主らは…」

 


嵐が笑っている。

 



未羽が、首を横に振った。

 



「今、耀き始めたところよ…」

 


未羽は、蝦夷の大地を見て言った。








秋になり、貴族が管理する野で鷹狩りが行われた。

 


清野が全てを仕切り、事は盛大に行われた。

 



「この鷹は、呉羽と名付けました」



直人は、田村麻呂にその鷹を託した。

 



「呉羽か…これは、見事な鷹じゃ…」



田村麻呂は、呉羽を一目で気に入った。

 



「俺の為に、育ててくれたのだな…」



田村麻呂は、その仕上げに満足なようであった。

 



「俺の為…」

 


直人が、田村麻呂の言葉に笑みを浮かべた。

 



「田村麻呂様…一つお願いが…」




直人は、田村麻呂になにやら耳打ちをした。

 



「ほう…あの獣の息が…」



田村麻呂はそう言って、笑みを浮かべた。

 



「お主も不運だったのう…」



「あの男に会ったのか…」



田村麻呂は笑っていた。

 



「はい…」




「面白い男よのう…」

 


「あの男は、人の運命をも変える…」



「俺が出会った中では、奴ほどの男はおるまい…」




「はい…」



直人にはその意味が良くわかる。




「あっ!」




風が吹いた。 


 

吹き抜ける風。

 



光が、二人の側を抜けて行った。

 


田村麻呂は笑みを浮かべていた。

 



「あの男も…ぼちぼち忙しくなるぞ…」



田村麻呂は、全て知っているかのように、そう言った。

 



「そうですね…」

 


何かが動き出す。

 


直人はそう感じていた。

 



それまでに…

 



直人の心は既に、決まっていた。

 



神々しい波動に、それを願った。

 






無欲の翼  - 完 -





挿絵(By みてみん)







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