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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その三十二





「あなたは、どこまでも真っ直ぐなのね…」



未羽はそう言った。

 


「私は、父や兄に怯えて生きてきた…」



そして、目を伏せた。




「空がそれを救ってくれた…」



「今から思うと…逃げていたのかも知れない…」



「でも、空がいなかったら、あなたにも出会えていない…」



「人生って不思議よね…」



未羽は、空の頭を撫でた。





挿絵(By みてみん)






「俺も…未羽に会えてよかったよ…」



直人は未羽を見つめた。

 


「未羽がいなかったら、今頃途方に暮れていたよ…」



「真っ直ぐに…」

 




「ふふっ、そうかもね…」


 

直人の言葉に未羽が笑った。 



その状況は簡単に想像出来た。

 



だが、途方に暮れる直人の世界には未羽はいない。

 


未羽に出会っていないから、途方に暮れているのだ。




自分がいるから直人が笑っている。

 


未羽はその事実がうれしかった。

 



誰かの為に何かをする。

 


真っ直ぐな直人の笑顔を見ていると、救われた。

 



人にすることは、自分にすることと同じ。

 



人に何かを教えることは、自分を問いただすこと…

 


これで良かったのか…

 


こうしたほうが良いのか…

 



素直な直人の心に触れると、自らの心も和む。

 



いつの間にか…

 


今まで感じた事の無い安らぎが、未羽の中に生まれていた。 




「私の中に…こんな気持ちがあるなんて、知らなかった…」




未羽の中には無かったもの…



未羽だけでは生まれなかったもの…




未羽はその感情を、抱きしめていた。





直人に触れ、未羽が生み出した幻想。




そこから感情が生まれていく。

 




「人ってこうやって変わって行くのかな…」



直人がつぶやいた。

 



何かに触れて人は変わる。


 


高きものに触れるか…

 


低きものに触れるか…

 



それすらも、自らで選ぶ事が出来る。

 



高きものに触れるとき…高き所へ…

 


低きものに触れるとき…低き所に惹かれていく…

 



自らの生み出す生命(エネルギー)

 


それが、器の中に蓄えられる。

 


そして、それが時間では無い、永遠の中で繰り返される。



 

「そうかも知れない…」

 


「私は、前の私とは違うもの…」



未羽の中には確信があった。

 




父や兄の呪縛の外に、自らの世界が存在した。 



それは、考えてもいなかったし、想像ができなかった。

 



だが、その扉を自らで開いた。

 


直人に触れ、真魚が背中を押した。

 



変われない自分はもういない。

 



その時の気持ちはもうない。

 



未羽は、真っ直ぐな直人の心に触れ、

 


直人の願いを叶えるために一歩踏み出した。

 



兄の呪縛から足を踏み出した。

 


そこには…

 


想像を遙かに超えた、世界が待っていた。

 



自らで選んだ世界。

 


そこは、無限に広がっていた。

 



自らを広げるためには、何かに触れる事だ。 



未羽はそれを体験した。

 



「自分の世界は、自分にしか変えられない…」



「そして、その力は誰にでも備わっている…」



未羽は自らの体験からそれを学んだ。

 



「俺も変われた、未羽のおかげだ…」



直人が未羽を見ていた。



 

「それは、あなたが一歩踏み出したから…」

 


未羽が微笑んだ。



 

「でも…」

 


「あの時の、あなたの顔って…」

 


笑いがこみ上げ、それ以上しゃべれなくなった。

 



「なんだよ!」

 


直人が不機嫌そうだ。

 



「だって、おかしかったんだもの…」



「初対面の私に、必死に頼むんだもの…」



「ありえないでしょ…」



未羽は目に涙を浮かべていた。

 



「でも、私の宝物よ…」



未羽が、直人に微笑んだ。

 



その時の直人の顔は、未羽の記憶の中にしかない。

 


この世界の中に、たった一つだけだ。




「なんだよ…それ…」

 


直人は納得出来ない。



まともな顔で無いことは分かっている。




だが、その顔が、未羽の未来を切り拓いた。




直人は、その事実を初めて聞いた。




自分自身が救われような気がしていた。






挿絵(By みてみん)






続く…




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