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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その二十七





黒い霧、巨大な物の怪。



清野はあれから、その事が頭を離れなかった。

 


書物を持ったまま、宙を見ていた。





挿絵(By みてみん)




名も知らぬあの男…



それが、謎を深める。 

 



田村麻呂の事を良く知っている。

 



貴族の中でも一目を置かれている男。

 


その田村麻呂を知っている。

 



それは、それなりの身分である証でもある。




「分からぬ…あのような男が…」




貴族の様で、貴族ではない。

 



服は汚れ、放浪癖のあるような男。

 



現れた物の怪にも畏れも見せなかった。



 

清野は真魚を量りかねていた。



 

そもそも…



清野が持っている秤。

 



それで、真魚を量れるはずがない。

 



清野の常識が通用するほど、真魚の存在は小さくない。

 



それすらも、清野は気付いていなかった。

 



「気になる…」



物の怪と同時に現れた黒い霧。

 



目が離せなかった。

 



吸い寄せられるように身体が動かなかった。

 



だが、あの男は畏れも見せていなかった。

 




清野は、無意識に立ち上がった。

 


そして、付き人を呼んだ。

 



「何かご用でしょうか?」

 


付き人は頭を下げた。

 



「出かける…」



 

「どこへいらっしゃるのでしょうか?」



付き人には、清野の考えが伝わっていない。

 



「昨日の黒い霧が気にならぬのか?」





「ですが、物の怪が…」




付き人は好奇心よりも、畏れが勝っているようだ。

 



「俺は気になるのだ…」

 


冷たい視線を付き人に向けた。

 



「私が…見て…参りましょうか…?」

 


清野の機嫌を伺った。

 



「その必要はない、俺が行く…」

 


清野は歩き始めた。

 


付き人は仕方なく後をついて行った。










 

美紗の変化を、紗羅は見逃さなかった。

 


目が覚めて、美紗がいない事に気がついた。

 


真魚と嵐の姿が見えなかった。

 


気になって外に出た。

 


岩戸の辺りに光が落ちた。

 



「あれは…」

 


神の獣と真魚。

 


そして、その側に美紗が立っていた。

 



「美紗?」


 

紗羅は我が目を疑った。

 


伝わる波動が、美紗ではなかったからだ。

 



紗羅は歩き始めた。

 


だが、それは美紗であった。


 

美紗が紗羅を見つけ走って来た。

 


そして、二人は抱き合った。 

 



「美紗?本当に美紗なの?」




紗羅は抱きしめて尚、その事実を疑った。

 


疑いようのない事実を、受け入れることが出来なかった。

 


「佐伯様、嵐…ありがとうございます…」




「俺は何もしていない、それは美紗の力だ…」



真魚は更にその事実を告げた。 

 



「紗羅を心配する心が、開いたのかも知れぬ…」

 


そして、そう付け加えた。

 



「見違えるよう…」

 


紗羅が美紗に微笑んだ。

 



「生まれ変わったみたい…」



美紗が母の言葉にはにかんだ。


 


だが、その言葉は嘘では無い。

 


今までの美紗とは、明らかに違う。

 


紗羅は、その事実を感じ取っていた。 

 



「一体、どうすれば、こうなるのかしら…」



紗羅には興味があった。



 

「大地を見たの…空の上から…」




「大地を…見た?」



美紗の言った事が、紗羅にはぴんとこなかった。

 



生命(エネルギー)の渦が見えた…」



大いなる大地の意思。

 


生命の波動。

 


紗羅にもようやくそれが何か見えてきた。

 



「見て、感じれば、疑いはしない…」



真魚が更に言った。

 



口でどう表現しようが、体験に勝るものはない。

 


美紗は、それを身をもって体験したのだ。




「よかったわね…」



紗羅が美紗に微笑んだ。



 

「紗羅も見に行くか?」



嵐が珍しくその気持ちに寄り添った。

 


「いいの?」

 


紗羅の喜びの波動。

 


それが広がっていく。



 

「昨日の煮物は美味かったからな…」



神の獣がそう言っている。




「美紗も乗れ…ついでだ…」



二人が神の獣、嵐の背中に乗った。


 

「行ってこい…」

 


真魚が嵐に声をかけた。

 



「では、行くか…」


 

その声と同時に、姿が消えた。

 



「どうやら…俺には客のようだ…」

 


真魚が笑みを浮かべていた。




挿絵(By みてみん)




続く…







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