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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その二十






母の体調が良くなった。

 


美紗にとっては、うれしい出来事であった。

 



「本当に良かった…」

 


母の顔色を見て、美紗が笑みを浮かべた。

 



「俺の薬草は…必要なかったな…」



父が残念そうに籠の中を見ている。

 


「どれどれ…」



後鬼がその籠の中を覗き込んだ。





挿絵(By みてみん)




「よし、これは治療代として、うちが頂こう…」

 


「よいか…?」

 


後鬼が父を見た。

 



「勿論…そんなもので良ければ…」

 



「そんなものとは何じゃ、うちにとっては宝じゃ…」



「おかげで紗羅は助かったのじゃ…」 



後鬼はやんわりと父を窘めた。

 



「そうだった…山の恵みが無ければ、俺達も生きては行けない…」



自然への畏敬の念。



それを忘れた自らに、父は恥じていた。

 



「出来たわよ…」



母が料理を持って来た。

 



「いい匂いだ…」

 


嵐が待ち構えている。

 



皆で食べようかというその時…



「!」



「真魚殿…」



後鬼が何かに気付いた。 




直ぐに外から声がかかった。

 



「この家に、外から来たものがおるであろう…」



場が一瞬、静まりかえった。



 


「俺が行く…」

 


そう言って真魚は立ち上がった。

 


「佐伯様…」



美紗は心配していた。

 


その波動が真魚に伝わっている。

 


「心配するな、奴に敵う人などおらぬ…」 



「むぐ、むぐ…」



嵐がそう言った。



既に何かを口に入れている。

 



その言葉は嘘では無い。

 


だが、皆は真魚の本当の力を知らない。

 


心配するのも無理はなかった。

 



「向こうから、飛んでくるとはな…」



真魚は、笑みを浮かべながら外に出た。

 



「何か…嫌な感じがするぞ…」



後鬼が、嵐に向かって言った。




「今のうちに食っておかねばな…」



嵐の口は止まらなかった。




「ほう…」

 


「本当に蛇のような男だな…」

 


外に出た真魚は、直ぐに綾太の言葉を思い出した。

 



「俺に何か用か!」

 


真魚は、清野に向かってそう言った。

 


前にいる付き人には、見向きもしない。

 



「貴様は誰だ!」

 


清野は、敵意を露わにして真魚に言った。

 


真魚は、その波動を感じている。

 



「お主…田村麻呂に何か恨みでもあるのか?」



清野の問いを無視した。

 



「なぜ、あの男を知っている!」



見知らぬ男から出た、意外な名。

 


その名を聞く度に、心が騒ぐ。




「蝦夷で見たからだ…」




真魚は、その事実を清野に告げた。

 



「蝦夷だと…あそこにいたのか…」




その言葉を聞いて、呆然となった。

 


目の前にいるこの男。

 


その男の言葉が、清野の心を揺さぶっている。

 



「何故、田村麻呂を恨む、奴はそれほど悪い男ではないぞ…」




田村麻呂の心を覗いている。

 


真魚のその言葉に、偽りは無い。

 



「奴は…父の手柄を奪ったのだ…」

 


「それは、我が一族の手柄だ…」



清野は歯を噛みしめた。

 



真魚に聞こえたかどうかは分からない。

 



「奴は蝦夷で死にかけたのだ…」



「お主は何か勘違いをしている…」



真魚は真実を清野に伝えた。



「勘違いだと…」



清野の怒りの波動が真魚に届く。

 



「あの男が兵を引かなければ、倭は全滅していた…」

 


その事実は、歴史から抹消されている。

 



「全滅だと…貴様は何を言っている…」

 


「倭は勝ったのだぞ…」

 


すり込まれた嘘で、この男も迷っている。



「ははははっは~」

 


清野の嘲笑が響き渡った。

 


「こんな馬鹿な男を、美紗は相手にしていたのか…」



「ほんとうの馬鹿とは、こういう男の事を言うのだな!」

 


その言葉が響き渡った。

 



「あんな奴!」

 


「美紗!」


 

美紗が飛び出しそうになるのを、父が止めた。 




「奴には分からぬ…永遠にな…」

 


その言葉で、美紗は踏みとどまった。

 



だが、一度膨らんだ怒りは収まらない。

 



今までの…美紗への行い。

 


そして、今度は母を救ってくれた真魚を穢す。




それらが重なり、増幅していく。

 



美紗の中で、黒い憎悪が生み出されていく。

 



「しまった…」

 


その波動に気付いた真魚が、振り向いた。

 


どん!


 

岩戸の裂け目から、音が聞こえた。

 



美紗は必死にその憎悪と戦っていた。



「美紗、しっかりなさい!」



紗羅が、美紗に手を当て呪を込めた。





挿絵(By みてみん)




続く…






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