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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その十九






清野が書物に目を通していると、付き人が現れた。



「清野様、村人から妙な男がいると…」




「妙な男だと…」



清野は一抹の不安を覚えた。

 




挿絵(By みてみん)





自らの行いを、直ぐに確認していた。

 



それは、心の何処かに畏れがあると言うことだ。




何かやましいことがある、という証でもあった。

 



だが、朝廷から咎められるようなことはしていない。

 


清野はもう一度、それを確かめた。

 



「一体…どういう男だ…」



清野の不安は、膨らんで行く。




「なにやら…貴族の様で、貴族でない…とか…」





「貴族の様で…貴族でない…それはどういうことだ!」



清野はその表現を嫌い、付き人を問い詰めた。

 



「貴族の様ななりをしておりますが、どこか薄汚いのでございます…」




「見たのか…」



清野は、その言い方が気になった。




「実は…少し前に、門の辺りでうろうろしている者達がおりまして…」




「それは、誰だ…」


 

「それが…」



付き人が、言いにくそうにしている。

 


それには訳がある。 

 



清野が美紗を気に入っている…



その事を、知っていたからだ。




「いいから言え!」



清野が声を荒げた。

 



「み、美紗でございます、美紗がその男と一緒に…」




「美紗が…どうしてだ…」



清野が立ち上がった。

 



そのような男を美紗が知っている。



その事実が、清野を立ち上がらせた。




「岩戸の方に…一緒に…」




「美紗の家の方か…」




付き人の話の内容に清野は苛立っていた。

 


自分には振り向きもしないくせに…



薄汚れた男には寄り添うのか…




「出かけるぞ…」




「はい?」



「出かけると言っておるのだ!」

 


「か、かしこまりました!」



清野の荒げた声に、付き人は逃げるように走った。

 



「そのような者が…美紗と…」



清野の不安は憎しみに変わり、矛先が真魚に向かっていた。

 








美紗の家に、ようやく父が帰ってきた。

 


嵐は父では無く、山菜の帰りを待っていた。




「この方達は…」



父は驚きのあまり、動くことが出来なかった。 

 



「父ちゃん、母ちゃんが元気になったよ!」



綾太がうれしそうに父に話した。

 


「紗羅…」



その元気そうな姿を見て、父はまた驚いた。

 


「どうすれば、こうなる…」



顔色が全然違う。



「それに…」



後鬼の額の角。

 


気になるのは仕方がない。



 

「後鬼さんの薬のおかげよ…」



紗羅が父に向かって微笑んだ。

 


有り得ない状況であるが、受け入れるしかない。

 


皆は、なぜか笑顔であった。

 



「俺は…頭がおかしくなりそうだ…」

 


答えがあったとしても…

 


理解はできないであろう。

 

 


父が持って帰った籠の中は、山の幸で一杯であった。

 


うど、蕗、椎茸、木耳…

 


「これは、見事な山の幸じゃのう…」



嵐がうれしそうに見ていた。



「今、この犬喋らなかったか…?」



父が皆の顔を確認した。

 


全員がにっこりと笑っている。

 


更なる笑顔の押し売りに、父の思考が停止した。

 



「犬ではないぞ、俺は神だ!」

 


示し合わせた様に、皆が笑った。

 


「か、神…様…」



父が泣きそうになっている。

 


常識が完全崩壊している。


 

「そうなの…神様なの…」



美紗が目に涙を浮かべて、笑っている。

 


「あーもうどうでもいい、飯だ、飯にしょう!」

 


「俺は、腹が減った!」



思考の壊滅した父が、食欲に救いを求めた。

 



「お主、なかなか話の分かる男だな…」



嵐が父に向かって話しかけた。



真魚が自らを名乗ったのは、それからしばらく後であった。





挿絵(By みてみん)




続く…







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