空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その十八
「鷹と梟には決定的な違いがあるの…」
未羽が、直人に説明を始めた。
「決定的な違い…?」
直人には、全く想像がつかない。
「ちょっと見ていて…」
「空、飛んで!」
未羽が話しかけると…
空は、言葉を理解したかのように飛んだ。
「気付かない?」
「俺には…分からぬ…」
直人には、まだその答えが見つからない。
助けを求めるように、未羽を見つめた。
「空、おいで!」
未羽が左手を上げると、空が戻ってきた。
空に餌を与えながら、直人に言った。
「今度は、呉羽を飛ばしてみて」
「呉羽、出番だ…」
尚人の手から、呉羽がぎこちなく飛んだ。
「音に注意してみて…」
未羽が、答えを導いていく。
「そうか!」
直人が気づいた様だ。
「空は、羽の音がしない!」
「そうよ!」
「鷹は、その羽音で獲物を萎縮させる…」
「だけど梟は忍び寄るの…」
未羽が、その答えと理由を説明した。
「なるほど…」
直人は納得していた。
「梟は大きくても兎ぐらいが限度…」
「だけど鷹や鷲は時には、狼だって倒す…」
「私は見たことがないけどね…」
未羽は直人を見て笑った。
直人はその笑顔に見とれていた。
「大丈夫?聞いてる?」
直人は、完全にうわの空であった。
真魚達は美紗の家で、一息ついていた。
「さすがに…身体が保たぬか…」
母の体調の変化を、真魚は感じ取っていた。
「あの封印は、紗羅が施したものだな…」
真魚が紗羅に聞いた。
「そうです…」
「数日前までは、どうもなかったのですが…」
紗羅に疲れの表情が見える。
「そういうことか…」
真魚が考え込んだ。
数日前…
真魚達がこの土地に来た頃だ。
場の流れの中に真魚達もいる。
それは、間違いなかった。
「こちらが…先か…」
ちりりぃぃぃん
真魚が懐の鈴を鳴らした。
「なに?何の音?」
綾太がその音に興味を示した。
「うちの出番ですかな…」
家の前で声がした。
入り口の簾をかき分けて、後鬼が入ってきた。
「俺の連れで、後鬼という…」
「うちは吉野の鬼で、後鬼じゃ…」
「鬼?」
綾太は口を開いたまま驚いている。
美紗も驚きのあまり、黙ったままだ。
鬼と言えば、悪名高い。
その先入観が、自らで畏れを生んでいる。
「いつもは前鬼という爺さんと一緒なのだが、今は別の所だ…」
後鬼が自己紹介しながらも、紗羅を見ていた。
紗羅は畏れてはいない。
後鬼の波動を、感じ取っているからだ。
「よくも人のなりで、そこまで我慢したものじゃ…」
後鬼がそう言いながら、背中の笈を下ろした。
そして、その中から理水の瓶を取り出した。
「これを飲むのじゃ…」
後鬼は、持って来た小さな器に理水を注いだ。
「こ、これは…」
その生命の耀きに、紗羅が驚いている。
「よろしいのでしょうか…」
「これが分かると言う事は、うちとしてもありがたい…」
後鬼の、生命の結晶と言って良い。
一滴の理水を生み出すために、後鬼は命を削っている。
「さあ…」
後鬼が紗羅の口に器を運んだ。
「何て…美しい…」
紗羅は、生命の波動の耀きを見て言った。
「ありがたく、頂きます…」
紗羅が一口飲んだ。
「ああ…美味しい…」
紗羅が、感動の声を上げた。
紗羅の身体に、生命の波動が広がっていく。
「すごい…これって…」
美紗は、奇蹟を見ているようであった。
母の身体に、生命がみなぎっていく。
「これで…もう大丈夫じゃ…」
後鬼が笑って、そう言った。
「ありがとうございます…」
紗羅は、後鬼に笑みを返した。
続く…