空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その十七
真魚達が村の畑に戻って来た。
「あの岩の下か…」
真魚が指で示した。
その場所は、美紗の家の場所であった。
「やっぱり…そうなんだ…」
美紗がつぶやいた。
「佐伯様は、何でも分かるんだね…」
綾太がそう言って嵐を見た。
「俺も分かっておるぞ…」
嵐も一応、答えておいた。
「守り人か…」
真魚が美紗に聞いた。
「母からはそう聞いています…」
「あれだけの波動…よく耐えておる…」
嵐が何かを感じている。
後鬼は力の渦と言っていた。
確かにいろいろなものが、集まっているようだ。
「母の身体は、大丈夫なのか…」
真魚は母の身体を、気遣っていた。
嵐が言う、耐えると言うこと。
それと、母の身体は無縁ではない。
「ええ、今は何とか…」
美紗はそう答えたが、不安は感じていた。
畑の間を抜け、小さな小川の側を山側に向かった。
そこに美紗の家があった。
美紗の家の裏には、大きな岩があった。
幾つかに割れた裂け目を、注連縄と紙垂で封印していた。
「お待ちしておりました…」
美紗の家から、女が現れた。
「母の紗羅でございます」
真魚に向かって、丁寧に頭を下げた。
「佐伯真魚だ、こっちが嵐だ…」
「おや!」
紗羅が嵐を見て驚いている。
「俺は神だぞ!」
犬と言われる前に、嵐が自ら事実を伝えた。
「これは…また…」
紗羅は一瞬驚いたが、直ぐに笑みを浮かべた。
すぐにその事実を受け入れた。
それは、紗羅がただ者ではないという証だ。
「父さんは?」
美紗は父がいないことに気がついた。
「山に薬草を摘みに…」
「ついでに山菜も採ってくるつもりよ…」
紗羅は、真魚達をもてなすつもりであろう。
「嵐がお腹空いてるみたいなの…」
「ご馳走してあげて…」
美紗は嵐を見ながら言った。
「契約は違えぬぞ…」
嵐は二人にそう言った。
「何が眠っている…」
真魚が単刀直入に聞いた。
「私には分かりません…出口だと聞いております…」
紗羅がそう答えた。
「これは…面白い…」
真魚が嵐を見て笑みを浮かべた。
「開けてびっくり…というやつだな…」
嵐がそう言って、笑っている。
「まさか…出口を開くおつもりでは…」
紗羅がそれを拒否している。
「何か見てみぬ事には、分からぬではないか?」
嵐が紗羅にそう言った。
「ですが…」
紗羅が困っている。
それには理由があった。
「古に、閉じた者がおるのであろう?」
真魚はその理由に気付いている。
「閉じた者がいるなら、また閉じればいい…」
真魚は片目を瞑った。
安心しろ、と言っているようだ。
「あなたって…お方は…」
紗羅が驚いている。
「そんな事…できるの…」
美紗が、その事実を知りたがっている。
「そこにも…面白い術を使う奴がいるではないか…」
嵐が綾太を見た。
「お、俺は、やだよ!どんな化け物が出るかも、わからないんだろ!」
「全く、情けない奴だ…」
綾太の嫌がっている様子を見て、嵐が笑っていた。
「そうか…そうなんですね…」
力が抜けたように、紗羅が急に震えだした。
「どうしたの母さん、大丈夫…?」
美紗が母の身体を支えた。
「方法は一つだけではない…」
真魚がそう言って笑った。
「どういうこと…?」
美紗が戸惑っている。
美紗と綾太だけが、蚊帳の外であった。
続く…