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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その十五






翌朝、真魚と嵐は鷹飼いの里に向かった。

 


山を下りていくと里が見えてきた。

 


廻りには田や畑がある。





挿絵(By みてみん)




「普通の村と変わらぬな…」

 


「自分たちも食べねばならぬからな…」



嵐の頭には、食べることしかないようだ。

 



「だが、何か…違うな…」

 


真魚は、それに気付いた。




「確かに…なにかが足らぬような…」

 


嵐もそれを感じ取っていた。

 


鷹の鳴き声が聞こえている。

 


その声に怯え、近寄って来ないものたちがいる。

 


「それだけは…ないかも知れぬな…」

 


真魚を見る村人達の目。

 



畑仕事をしながら、真魚達を気にしている。 



罪人を見るような目つきであった。 

 



「歓迎はされておらぬようだな…」

 


真魚は気付かぬふりをして、村の奥に歩いて行った。 





「あのお方は…」

 


「どうしたの?母さん…」

 


畑仕事をしていた美紗が、母の言葉に顔を上げた。

 


「何か見えるの?」



美紗が母に行った。

 



「美紗、あなたは感じないの?」




「えっ…」



美紗が真魚に意識を向けた。

 


「あっ…」



「あの方…何もしてないの…」



美紗は、真魚の波動を捉えた。

 



真魚はただ歩いているだけだ。

 



肩に例の棒を担いで…

 



それなのに、伝わってくる波動が尋常ではない。

 



「この世に…あんな人がいるの…」



美紗は驚いていた。

 



真魚から溢れ出る波動。 

 



「美紗、あのお方を案内しなさい…」




「母さん、どういうことなの?」




「あの方は来るべくして、来た方よ…」




「分かるわね…」



母が美紗の手を握った。

 


「うん」

 


美紗は、ただならぬ母の意思を感じた。

 


何かが動き出した。

 


それは、美紗も感じていた。








真魚が急に立ち止まった。

 


嵐は既に上を向いていた。

 



どさっ!

 



真魚の目の前に、山鳩が落ちてきた。

 



「ほう…」

 



次の瞬間…

 


山鳩が消えた。

 


「あ~!」



後ろから声がした。

 


「坊主、運が悪かったな!」



真魚が振り返って少年に言った。

 


少年が呆然と立っている。



嵐が舌なめずりをしている。

 



「こら!そこのくそ犬、俺の鳩を返せ!」 




少年が、嵐に噛みつこうとした。

 


勿論、冗談のはずであった。

 



「誰が、くそ犬じゃ!俺は神だぞ!」

 



少年の無礼な言葉に、嵐が口を開いた。

 



「うわわっ!」

 


少年は、驚いて尻餅をついた。

 



「い、い、い、犬が…」

 


座り込んだまま口を開けている。

 



「申し訳ございません!」

 


離れた所から声が聞こえた。



美紗が慌てて走って来た。

 


真魚の前に来ると土下座をした。

 



「どうか、弟のご無礼をお許しください」 



美紗は頭を地面につけて誤った。

 



「綾太、あなたも誤りなさい…」

 



「だって姉ちゃん、犬が…」

 



「犬ではないと言っておろうが!」



美紗の耳元で声がした。

 


「えっ…」



美紗が、恐る恐る顔を上げた。

 



「お主、なかなか美しいのう…」



嵐と目が合った。



 

「き、き、き…」

 


美紗が声を上げようとした時、口を塞がれた。

 



「心配するな…俺の連れだ…」



真魚が、美紗の目を見た。

 


美紗は、真魚の瞳に囚われた。

 


頬が、赤く染まる。



こっくり…



口をふさがれたまま、美紗は頷いた。

 



「だから言ったじゃないか!」



綾太が美紗を笑っている。

 



「だって、犬が喋るなんて…」




「神様なんだって…」



嵐が言う前に、綾太がその事実を美紗に伝えた。




「神…様…?」



美紗は嵐を見て驚いていた。

 



「そういえば…」



「あなただけではなかったのね…」



美紗はその事実を受け入れていた。

 



「わかるのか?」



真魚が美紗に聞いた。

 



「少し…だけ…」

 


何とは聞かなかった。

 


だが、美紗には真魚の問いが分かっていた。

 



「この坊主もおかしな術を使いよる…」

 


「おかげで朝飯にありつけたがな…」



毛もむしらず、焼かずとも嵐には関係ないようだ。

 



「母に言われて来ました」

 


「私は、美紗、こっちが弟の綾太でございます」

 




「あそこの畑にいるお方だな…」



真魚が振り向いた。

 



「知っていらしたのですか…?」

 


美紗はその事実に驚いていた。

 



「そういえば…俺のも気付いてたな…」



綾太が、その瞬間を思い出していた。

 



『来るべくして、来た方よ…』



美紗は、母の言葉を思い出した。




「俺は、佐伯真魚だ、こっちは嵐だ」




「佐伯様…」



美紗は、あることを思いだした。

 



「ひょっとして、橘直人様をご存じでしょうか?」



美紗は、直人の変化が気になっていた。

 


「知っているぞ…」



だが、その言葉は、真魚に美紗の心の内を見せた。

 



真魚が笑っている。

 



美紗が、その笑みに気付き、頬を赤らめた。

 





挿絵(By みてみん)





続く…



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