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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その十四





「直人にも、道が拓けたではないか…」



真魚が笑っていた。

 



あるがまま…



それが、近道かも知れない。




「なるほど…色ぼけを利用するとはな…」



嵐が、意外な展開に感心している。

 



「若人のひたむきな思いを、そんな風に言うものではないぞ!」

 


後鬼がその想いに感心を寄せている。






挿絵(By みてみん)





「利用するのではないぞ、そうなっていくのだ…」



惹かれ合う心は止められない。



真魚がそう言って笑っていた。





「そうなるものは、仕方ないのう…」



後鬼がうれしそうに頷いている。

 



「うちも若い頃はそうだった…」



頬に手を当てて、その頃を思い出している。

 



「何百年前の話だ…まったく…」




「うちの美しい思い出を、穢さないでもらえるかのう…」

 


後鬼が、嵐を睨んでいた。


 


「しかし、直人は貴族じゃぞ…」



「今はまだ夢の中…そのうちに現実に気がつく…」



前鬼が二人の行く末を案じていた。




「身分の差か…二人が結ばれることはのう…」

 


後鬼が言った。




「それは二人が決めればいい…」

 


真魚はそう言うが、自由に選べる訳でもない。




「お主は意外と冷たい男じゃな…」

 


嵐は、真魚を横目で見ていた。

 



「野兎の借りがあるのであろう?」



真魚が嵐を見て不敵な笑みを浮かべた。

 



「お主…俺に何を求めている…」



その笑みを嵐は嫌った。

 



「さあな…」



真魚は嵐を突き放した。

 



「あ、それともう一つ…」

 


「直人に関わりの深い家族がいる」




「里にか…」



前鬼のその話に、真魚が興味を持った。

 



「直人が、鷹を預けている家のようだが、力が集中しておる」




「それは…どういうことじゃ?」

 


嵐が気になって聞いた。

 



「うちが見た感じじゃと、海の渦のようなものかもしれぬ…」




自らの感覚を、後鬼が皆に伝えた。

 



「気になるな…」


 

「穴か…」



真魚がつぶやいた。




「一度見に行ってみるか…」


 

真魚は考えを巡らせていた。









鷹飼いの里の屋敷。

 


貴族の男が書物に目を通していた。

 



「最近、直人が何処かに出かけているようであるが…」



その男が、側にいた付き人に尋ねた。

 



「そのような事は、私には存じかねます」

 


雑務で忙しい付き人には、人のことに構っている暇はないのであろう。

 



「清野様、ご心配とあらば見て参りますが…」



「どうせ、何も出来ぬ男だ…」



貴族の男は笑って言った。

 


肌が白く、蛇のような男であった。

 


目が細くつり上がっている。

 


眉毛も細く長い。

 


唇が薄く紅をさしたように赤い。

 


その口が広がっている。

 



「放っておけば良い、恥を掻くのはあの男だ…」

 


清野が言ったあの男とは、田村麻呂の事である。

 



「あの男のおかげで…我が一族がどれだけ名声を下げているか…」



「蝦夷との戦いでも…奴がすべて手柄を奪った…」




清野は拳を握りしめた。




「あの男さえいなければ、俺もこんな所でくすぶってはいない…」

 



「お上の前で、恥を掻くがいい…」



その様子を思い浮かべ、清野は不気味な笑みを浮かべていた。




そして、白い蛇のように、自らの唇を長い舌で舐めた。





挿絵(By みてみん)





続く…



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