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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その十






「真魚殿が、言われた通り、来て見れば…」



後鬼が木の上から、その里を見ていた。

 


里まではまだ距離がある。

 


誰かに見つかると言う事はない。

 



「たかが、鷹狩り…されど鷹狩りか…」




「爺さん、今のは笑うところかいな…」



判断が遅れた後鬼が、仕方なくそう返した。

 




挿絵(By みてみん)





「お偉い方と言うのは、退屈なのかのう…」

 


後鬼が呆れていた。

 


二十ほどの家が並んでいた。

 


まだその奥に、幾つか並んでいる。

 



鷹飼いの里。

 


鷹を飼うために出来た場所だ。

 



貴族の鷹飼いと言っても、世話をするのは違う者達だ。

 


鷹は毎日、数匹の鼠などの動物を食べる。

 



鷹を飼うと言う事は、それらを捕まえて与えなければならない。

 


狩りをする野も整えておかなければならない。




貴族がそのようなことを、するわけがない。

 


必然と手伝う者が、必要となる。

 



貴族を支えているのは、紛れもなく庶民達だ。

 



そうやって出来た場所と言う事だろう。




「さて、爺さん、どこから見て行こうかのう…」

 



「これだけあると、どこという訳にはいかぬようじゃな…」




「ん!」



後鬼が、何かに気がついた。


 

「これは…」



前鬼がその波動を感じ取っている。

 



「お偉い方々も…いろいろと、あるようですな…」



後鬼が、感じ取った波動をそう判断した。




「とりあえず、行ってみるか…」



前鬼がそう言って木の上から跳んだ。

 



「綻びがあれば、穴が開く…」

 


「そういうものか…」



後鬼が後を追って飛んだ。





貴族の男が、娘の腕を掴んでいる。 



「どうだ、美紗(みさ)、俺と遊ばぬか…」




「どうか、お許しください…」




娘がそれを拒んでいる。



貴族の娘ではない。

 



「この前も…そう言ったではないか…」



男は、聞き入れようとはしない。




どさっ!



 

その時、空の上から何かが落ちてきた。

 



きゃぁぁぁあ!

 



美紗が叫んだ。

 


男は美紗の叫び声で、手を離してしまった。




美紗は、その隙に逃げた。


 



それは、山鳩であった。




「だれだ!こんな事をする奴は!」

 


貴族の男が叫び、廻りを見渡した。

 



だが、気配も、人影もない。

 



山鳩は、真上から落ちてきた。

 


誰かが投げたものでは無い。

 



「全く、縁起でもない…」

 


男は腹を立て、その山鳩を蹴ろうとした。

 


自らのくすんだ感情を、それで解放しようとした。




「お待ちください!」

 



一人の男が現れた。

 



頭に、手ぬぐいのような布を巻いていた。

 


髭を蓄えている。

 



歳は、四十ほどであろうか…



 

「まだ、息をしております…殺す事は災いをもたらします…」



その男が、貴族の男に言った。

 



「そ、そうだな…」



貴族の男は止まった。




「これは、私どもが処分いたします」



男がその山鳩を両手で包んだ。

 



「では、そうするが良い…」



そう言って、貴族の男は里の奥に歩いて行った。

 



綾太(りょうた)か!」



貴族の男が消えてから声をかけた。


 


屋根の上から顔が覗いた。

 


少年であった。

 



「あいつ…しつこいなぁ…」



「直人様とはとは、えらい違いだ…」

 


少年はそう言って、屋根から飛び降りた。

 



「命を粗末に扱うな!」

 


男が少年の頭を叩いた。

 



「姉ちゃんを助けたんだぜ…」

 



「他にも方法があるだろうが!」

 


男は少年の父のようであった。

 


山鳩は、父の腕の中で息絶えていた。

 


父は目を瞑り、何かをつぶやいた。

 



「これは鷹の餌にするぞ…」

 


そう言って綾太に渡し、家に戻って行った。

 


しばらくすると、家の陰から美紗が顔を出した。

 



「ありがとう、綾太…」

 



「姉ちゃんのおかげで、父ちゃんに叱られたじゃないか…」

 



「鳩を粗末に、扱ったからでしょ?」

 



「そうだけど…」

 



「私は感謝してるわよ!」

 


美紗がそう言って綾太の頭をこづいた。

 



「それにしても、やな奴だわ…」

 



「聞かれたら大変だよ」


 

美紗が、弟の綾太に窘められた。

 



聞かれてはまずい話。

 


それでも言わずにはいられない。 




「あなたこそ…見つかったら殺されるわよ…」




美紗が、綾太に忠告している。

 


「見つかる訳がないさ…」

 


綾太には、その自信があった。




「調子に乗ってはだめよ…」

 


美紗は、綾太の過信を危ういと感じていた。




挿絵(By みてみん)





続く…


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