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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その七





その夜、真魚と嵐はそのまま野営することにした。

 



真魚が出した金色の布を、木の枝に吊した。



それが、屋根の代わりになる。

 



雨が降るというわけではないが、他にも理由がある。

 



夜でも、内側がほんのりと明るい。




他にも、秘められた力が備わっているようだ。

 




挿絵(By みてみん)





「お主の企みが、全く分からん…」



寝転がった嵐が、横目で真魚を見た。

 



「貴族の鷹飼を助けた所で、何の役に立つというのだ…」



嵐は、真魚に聞こえるように言った。

 



「鷹狩りと言えば、あの男も相当楽しみにしているらしいぞ…」



あの男と言うのは、桓武天皇の事である。

 



「それが、あの二人に関係あるのか?」

 


嵐にはどうでもいいことではある。

 



だが、未羽と直人の事は気になる。

 



「直人にとっては、出世の足がかりになるかも知れぬ…」

 



他の者がやりたくない仕事。



それ故に、うまくやれば道も拓ける。

 



真魚はそう考えていた。

 



「そういえば…直人の鷹も落ち着いていたな…」

 


「それよりも…未羽の兄か…」

 


嵐が、未羽と兄の関係を心配していた。

 



身近な存在が、違う考え方を持つと厄介だ。

 



その存在は、家族とは言え最大の敵となる。




だが、この世は二極。

 




与えられた場から何かを生み出すには、



その方法は間違ってはいない。

 



見かけは敵であるが、真実はそうではない。




時にはそれが、力になることもある。

 



そこに気付くことで、意味が生まれるのだ。




「珍しいではないか?」

 


嵐が人の事を心配するなど、滅多にないことだ。

 



「野兎…うまかったからなぁ…」

 


嵐は久しぶりの肉の味を、思い出していた。

 



「色気より、食い気か…」

 


真魚はそう言って、呆れていた。

 



「笑い事ではない、この借りは返さなくてはならぬ…」

 


嵐は真剣にそう考えていた。

 



「神である俺が、人からもらったままではな…」



嵐がもらったもの…

 



食い物のことであろうか? 

 


食べたあとの満足感であろうか?

 


どちらにしても、嵐には理由が存在するようである。

 



「あの者達にも、人肌脱いでもらうとするか…」

 


真魚がそう言ったときであった。

 



ひゃひゃひゃひゃひゃ~

 


下品な笑い声。

 


布の前に、足音が聞こえた。

 



「今日はうちの勝ちでした!」

 



金色の布の間から、後鬼が顔を覗かせた。




後鬼は女の青鬼で、髪が長い。



額の両側に角が生え、口元には牙も見えている。



若い頃は美しかっただろう。



人で言えば、六十歳をこえた頃に見える。



だが、実際にどれだけ生きているか、定かではない。




「そういうことで…」




その後から、前鬼が入ってきた。



前鬼は男の赤鬼で、同じく背中に笈を背負っている。



髭を蓄えているが、髪は薄い。




お互いに修験者の格好で、背中に笈を背負っていた。


 


「お主らに、調べてもらいたい事がある…」

 



「おや、これは…」

 


真魚が言うよりより先に、後鬼が何かを感じた。

 


後鬼は既に、未来を読んでいた。

 



「お主らずっと見ていたのか?」



嵐が、前鬼と後鬼を睨んでいる。

 



「おや、大いなる神が気付かなかったのかい?」



後鬼は、態と意地悪な言い方をした。

 



「気配を消しておったくせに…」

 


嵐が負け惜しみを言っている。

 



「真魚殿は気付いておったぞ…」

 


後鬼は、更に追い打ちをかける。

 



「言っておくが、俺はお主らの様なものと繋がってはおらぬ…」



裏を返せば、嵐は真魚には繋がっているということだ。

 



「網の糸は、切れてはおるまい…」

 


前鬼が、その事実を言った。

 



「真魚殿から、どれだけの糸が出ておるのか…」



真魚の身体を、後鬼は案じていた。




「気になることが幾つかある…」

 


真魚はそう言って、後鬼に耳打ちをした。

 



「なるほど…」



「貴族の世界も、いろいろとあるのでしょうな…」



後鬼は、妙に納得した表情で答えた。

 



「その件はうちらにお任せください…」

 


「爺さんにはあとでゆっくり…」

 


「おや?」



後鬼が視線を送ったときには、前鬼の姿は消えていた。

 



「では、お主もしっかりと勤めを果たせよ…」

 


嵐にその言葉を残して、後鬼が前鬼の後を追った。 

 



「全く…忌々しい奴らだ…」

 


そう言いながらも、嵐は笑っていた。 




挿絵(By みてみん)




続く…


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