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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その四






空は一直線に獲物に向かった。

 


その翼に迷いは全くない。

 


本能か、魂か…

 


そこには、生命の美が存在していた。

 



挿絵(By みてみん)




「美しい…」

 


心が震えている。



未羽と木菟。

 



二つの美に、心が痺れていた。

 



男は感動に包まれたまま、その刹那を生きた。

 



「面白い…」



真魚は、その男の波動を見逃さなかった。




空は野兎に飛び乗ると、押さえ込んだ。

 



未羽が、獲物に向かって走りだした。




爪が食い込んだ野兎は、動けなかった。

 



未羽は興奮した空に、餌を与えながら爪を外した。 




「お前はやっぱり…すごい…」



未羽が微笑んだ。

 



野兎は既に息絶えていた。

 



未羽は野兎に手を当てた。

 



「その生命、我らと共に生きよ…」

 



目を瞑り呪を唱えた。

 



生命に対する敬意の言葉だ。




空を繋ぎ、立ち上がった。

 

 



未羽は真魚と嵐を見つけ、獲物を上げた。

 



「なかなかやるのう…」



「おい、真魚!」




真魚の返事がない。




「また良からぬ事を考えておるな…」



嵐が見た真魚の顔は、そういう顔であった。

 



貴族の鷹匠。

 


その男を見て、真魚は笑みを浮かべていた。

 



「どうだ!空はすごいだろ!」



未羽が笑顔で戻ってきた。

 



真魚が笑っている。

 



「どうした?」

 


未羽はその笑顔が気に入らなかった。

 



「あの、すまぬ…」



未羽の後ろから声がした。

 



未羽が振り返り言った。

 


「お、先ほどは場をお譲り…」




「お、俺に教えてもらえぬか!」

 


未羽の言葉を、男の声がかき消した。

 



橘直人(たちばなのなおひと)と申す、俺に狩りを教えてもらえぬか!」




頬が赤く、目が潤んでいる。

 


感動の名残が、男の心を揺らしている。




「教えるも…なにも…」


 

未羽はその言葉に戸惑っていた。

 



「何か、訳がありそうだな…」



真魚が、直人と言う男に助け船を出した。

 



「は、はい…」



橘直人は下を向いた。

 



「話ぐらい、聞いてやってはどうだ?」



真魚が未羽の顔を覗いた。

 



「違いすぎる…」

 


未羽がそうつぶやいた。

 


身分が違うと、未羽は言っているのだ。

 



「それは関係ない!俺から見れば…」



直人はそこまで言いかけて止まった。

 



「俺が間に入ってやろう…」



真魚がそう言った。

 



「どういうことだ!」

 


未羽は、真魚の言葉の意味が分からない。 




「お互い、俺に会うことにすれば良いではないのか?」

 



「あなた様は…」

 


直人が、気になっている事を口にした。

 



「俺は、佐伯真魚だ…」




「佐伯…真魚…殿…」



直人の顔色が変わった。

 



「知っているのか、俺を…」




「ただの噂ですが…」



直人は驚いていた。

 



「どうやら、極悪人として伝わっているようじゃぞ…」

 


嵐が真魚に言った。

 


「そのようだ…」

 


真魚が笑って答えた。



直人の表情が、それを伝えていた。




「えっ…」

 


直人の表情が硬くなった。

 


固まったと言って良かった。

 



「どうしたのじゃ?俺は犬ではないぞ!神だ!」



嵐が自慢げに、その事実を告げた。

 



「い、い、犬が…喋った…」

 



「お主は、人の話を聞いておらぬのか!」



嵐がそう言って、直人を窘めた。

 



「喋るのよ…神様だから…」

 


未羽が、固まった直人を見て笑った。

 



「神…様…?」

 


直人の表情が緩むまでには、あと少しの(とき)が必要であった。

 



挿絵(By みてみん)




続く…





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