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空の宇珠 海の渦 外伝 無欲の翼 その三





「この辺りだと…何だ、兎か?」

 


嵐の夢が膨らんでいる。

 



「普通は、鷹を使うのではないのか?」



嵐がぶつぶつと一人で喋っていた。

 



何か食べられる事がうれしいようだ。

 




挿絵(By みてみん)




「最近は、野菜ばっかりだったからなぁ…」


 

森の向こうに野が広がっていた。

 



ここが、猟場であるようだ。

 


だが、未羽はその野の手前で立ち止まった。

 



「先客のようだ…」

 


野の向こうに男が一人立っていた。

 


男だと分かるのは、男のなりをしていたからだ。

 


しかも、着物からすると庶民ではない。




「鷹匠か…」

 


真魚がつぶやいた。

 



「貴族の野は、もっと向こうの筈だ…」



未羽は文句を言うようにつぶやいた。

 



「なんだ、あいつ、素人か…」



未羽は遠くから、その男の力量を見抜いていた。

 



「あの鷹をどうにかしないと、空は飛ばせぬ…」

 


面倒な様子で美羽は歩き始めた。

 



「この未羽とやら、結構言いたいことは言うのう…」



その気の強さに、嵐が舌を巻いた。

 



「そうだな…」



真魚は、ただ笑って見ていた。

 



未羽はお構いなしに、男に近づいて行った。




「そこのお方…」

 


「その鷹を少しの間、静かにさせてもらえぬか?」

 


見知らぬ男に、未羽は畏れずそう言った。

 



先にいたのはこの男だ。

 


場の権利は、明らかに男にあるはずだ。




「言う事を聞かぬのであろう…」

 


「先ほど私も同じ目に遭った…」

 


「それは畏れだ…」

 


自らに起こった事実を男に告げた。

 



「あ、ああ…すまぬ…そうか…」



男がそう言って、自らの手に繋いだ鷹をなだめた。

 



未羽は、その男から少し距離をとった。



真魚達は、後ろの草むらに身を隠した。

 



「そんな都合良く、獲物が出てくるのか…」

 


空の力量はともかく、獲物がいないと話にならない。




「お主がいては…な…」



真魚が、獲物がいない理由を告げた。




「ちょっと面白いではないか…」



真魚の言葉を、嵐は否定しなかった。




嵐がそう言った後、風が吹いた。

 


その風が野を駆け抜け、森に消えた。

 


そしてまた、野に戻ってきた。

 



それは、ほんの一瞬の出来事であった。

 



男の鷹が暴れている。

 



「おい、呉羽(くれは)どうした!」

 


男が必死で鷹をなだめたいる。

 



空はもう、その風を畏れない。

 


その身全てを、その神に委ねている。

 



それを、仕組んだのは真魚だ。

 



すると、森の脇から一羽の野兎が現れた。

 



その瞬間。

 



空の頭が動き、止まった。

 


空が野兎を見ていた。




少し前屈みになり体勢をとった。

 


美羽が空を解き放った。

 



空が飛んだ。

 



「おお…」



男が声を出した。

 



「見事だ…」



夕焼けを背にした未羽の姿。



その一瞬の美しさに心を奪われた。

 


そして、男はその美しさを、心に刻み込んでいた。





挿絵(By みてみん)





続く…




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