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空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その二十九






聡真と父が、浜で船を修理していた。

 


船が無くては漁は出来ない。

 


改めて見ると、鰐の歯の後が痛々しい。

 



「良く生きていたものだ…」



聡真の父、万次が船を見て言った。

 



「そうだね…」



聡真は万次に話を合わせた。



だが、真魚と嵐に助けられた事実を知っていた。

 



「お兄ちゃん、あれ…」



様子を見に来た那海が指をさした。

 




挿絵(By みてみん)




空に一筋の光が見えた。



「真魚、嵐…」



聡真はすぐにそう思った。

 


理由は分からない。

 


「もう帰っちゃうのかな…」



那海もその事を否定はしない。

 



「また、会える…きっと…」



聡真がその光を見て言った。

 



「そうよね…また会えるわよね…」



那海はその光を、愛しげに見つめていた。

 









朝陽が照らしても、誰も目を覚まさない。



海賊達は眠っていた。

 


夜通し飲んで騒いだ。

 


兄の有我も動く気配が無い。

 



「ご馳走になった礼を、せねばなるまい…」



一晩起きていた結希に、嵐が言った。

 



「礼なんて…」



「私の方こそ、有り難いと思っています」



それが、結希の素直な気持ちだ。

 



「それは、それだ…」



嵐がそう言うと霊力を解放した。

 



その霊力で大気が押され、砂が舞い上った。 



結希は目を瞑っていた。

 


次に目を開けた時には、美しい獣が目の前にいた。

 



「嵐…なの…」



結希は、開いた口が塞がらない。



ただの犬ではないと感じていた。



だが、想像を遙かに超える霊力であった。


 


「言っただろう、俺は神だ」



嵐が、眩き耀きの中で言った。

 


真魚が立ち上がった。

 



「では、行くか…」




「行くって、どこへ?」




「来れば分かる…」

 


嵐の背に飛び乗った真魚が、結希に手を差し伸べた。

 



結希はその手をしっかり握った。

 


そして、真魚の前に乗った。

 



「何だか…恥ずかしい…」



結希の頬が赤い。

 



無理も無い。

 


結希にとっては、初めてのことだ。

 



「しっかり掴まっておれ!」


 

嵐がそう言うと、飛んだ。

 



「きゃぁ!」


 

結希は意表を突かれ、落ちそうになった。

 


その身体を、真魚が抱き留めた。

 



「あ、ありがとう…」



真魚に後ろから抱かれ、結希の頬は更に赤くなった。




走ると思っていた結希は、眼下の海を見て驚いた。




「飛んでる…」



「船がないと思っていたら、こういうことだったのね…」



結希の疑問が一つ消えた。

 



真魚達の船が見当たらない。



その答えが、嵐であった。




「でも、気持ちいい…」



結希は全てを身体で受け止めた。

 



風、潮の香り、太陽の光、海の生命。




「海賊にしておくのは、勿体ないな…」    



真魚は、結希の才能にそう言った。


 


「上に行くぞ!」



嵐は高度を上げた。

 


あっという間に、島が小さくなった。

 



「すごい!」



身体に感じる波動。

 



結希の感動が止まらない。

 



「大地って…丸いの…」



結希は、その曲線に目を奪われた。

 



「水平線が少し曲がって見えるのは、こういうことなんだ…」



自分が見ていたものは、ほんの一部。

 


結希は、その事に気がついた。

 



「すごい、すごい、すごい~っ!」

 


気がつくと結希は叫んでいた。

 



結希の感動が溢れている。




「この辺りでどうだ…」

 


嵐が止まった。


 


「ああ…」



結希は、目の前の光景に声が出なかった。

 


宇宙との境目。



嵐の霊力に守られていなければ、命はない。




「星…大地って、星なの…」



結希の思考が混乱している。

 


空に輝く星。

 


全部に人が住んでいる。

 


結希はそう思っていた。

 



「この星は…希まれだ…」



真魚が言った。

 



「これだけの生命に溢れた星は、そう多くない…」



「目を閉じれば分かる…」




真魚の言葉で、結希が目を閉じた。 

 



「あ…」



その瞬間に、結希の身体が輝いた。

 



光が飛び込んでくる。

 



それは、身体をすり抜ける。



結希の魂が、それを受け止めていた。






「これが…生命…」



結希の廻りに、金色の光の粒が舞い降りる。

 



「全ては純粋な生命(エネルギー)だ…」



真魚がそう言った。

 



「これが…命の…元…」



結希は手を広げた。

 



身体と魂が一体となる。

 



光の粒が、手に触れる。

 



全てが、愛おしく、儚い。

 



「そして、神の心だ…」




真魚の言葉で、涙が溢れた。

 



儚く、尊い…

 


切なく、悲しい…



 

存在自体が、希だと感じた。

 


奇蹟であった。

 



その事実に、涙が止まらなかった。

 



「世界はこれで…出来ているの…」




結希は、全てを抱きしめようとした。

 




『その必要は無い…全ては共にある…』





光の粒が、結希に話しかけた。

 



言葉では無い。

 


それは、意思だ。

 



「結希、良い名をもらったな…」



文字の読めない嵐が言った。

 


だが、込められた想いは、分かっていた。

 



「望みを結ぶのでは…なかったんだ…」



父は、自らの意思を、押しつけたのではなかった。




希であるもので、世界は出来ている。

 



「父にとっては、愛しく、尊い命だ…」



真魚は、父の想いを感じていた。




神と共に、自らも尊い事を知った。

 



「ありがとう…」

 


結希は、父に感謝した。

 



生命の器に、全てを受け入れていた。





- 魂の器 完 -





挿絵(By みてみん)







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