表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
316/494

空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その二十六






沖の島では、弔いの儀式が終わり、宴が始まっていた。


 

死者の魂を孤独にしない。



そのために、朝まで騒ぐ。 



飲んで、酔って、歌って、踊る。



これが、海賊の流儀らしい。

 





「それにしても、良くこれだけ準備できたな…」

 


真魚が驚いている。

 


頭が行方不明だという時に、宴の準備をしていた事になる。

 


「秘密だけど、そこら中の島に食料は隠している…」



「ここもその一つよ…」





挿絵(By みてみん)





上座も下座も存在しない。

 


地面の上に、皆が適当に座っている。



気の合う者同士、楽しんでいた。

 



「なるほどな…幽霊が出るか…」



那海が言っていた幽霊の話。


 

満更、嘘でもないらしい。

 



「なかなか、良く出来た仕組みだ…」



真魚は、感心していた。

 



その側で、食い物にありついた嵐が、夢中で食べている。

 



「それにしても…この子犬…」



結希がその食欲に、驚いていた。 



 

「犬では無い、俺は神だと言っておろうが…むぐむぐ…」



食べながら、結希の言葉に釘を刺した。

 



「結希は、食べないのか?」



先ほどから余り口にしていない。

 



「そういう気分でもないの…」



「あなたこそ、一杯だけでもいかがですか?」




「では、一口だけ、頂こう…」



真魚は、杯に注がれた濁った液体に、口をつけた。

 



「なかなか、良い酒だな…」



「これだけいると、相当な量が必要だな…」



全部で五十人ほどいるだろうか…



真魚は、踊る様子を見て笑っていた。

 



「海賊仕込みです…」

 


どうやら、自家製らしい。




何処かで大量に作っていると言うことだ。




「貴様に言っておく!俺は貴族は好かぬ!」



兄の有我が、酔って絡んできた。

 



「兄上、この方は父を看取ってくれた方です!」



結希は声を出して、兄に嘘をついた。

 


結希の声は、他の者にも届いている。

 


その言葉が、真魚を守るかも知れない。

 



「俺はもう、退屈な生活にはもどらぬ…」




「貴族を止めるのか…坊主にでもなるか!」



「だったら、仲間にしてやってもいいぞ!」



有我はそう言い残して、その場を去った。

 



「そんなところか…」



真魚は有我の後ろ姿につぶやいた。

 



「本当なの…?」



結希が信じられない様子で見ていた。

 



「生まれた場所で、人の運命が決まる…」



「結希は、どう思う…」

 


今の時代の現状を、真魚は突きつけた。

 


結希の置かれている状況が、正にそうであった。 




「私も、海賊になりたかった訳じゃない…」



結希は、そう言って皆を見ていた。

 



海賊の父を持つ結希に、他の生き方は無い。

 


海に出るか、里で過ごすかの差だけだ。

 



「俺には救えなかった者達がいる…」



「貴族と雖も、苦しんでいる者もいる…」



真魚の言葉が、結希には意外であった。

 



「不自由なく、暮らせるというのに…」



貴族の世界にも苦しみがある。

 


結希はその事実を初めて知った。

 



「人が、人として生きて行ける…」

 


「そんな世を、導かねばならぬ…」



真魚がそう言った。

 



「!」

 


結希の中を、真魚の言葉が抜けて行った。 



その波動が、結希を揺らしている。




「そんな夢の様な世が…来るの…」



結希の声が、感動で震えている。

 



「私も見てみたい…そんな…」



「そんな、世があるなら…」



「私も見たい!」




結希の心の波動。

 



それが広がっていく。

 



真魚の言葉で、揺れて、広がる。

 



結希の瞳に、涙が浮かんでいた。

 


結希の苦しみが、そこに存在した。

 



「あなたなら…出来るかも知れない…」



結希が言った。




「生まれた場所や、貧富に左右されず、皆が、未来を選択できる…」



真魚がその心象を、言葉にした。

 



考えた事もなかった。

 


自分の未来が変わることなど、有り得ないと思っていた。




「人は皆、それを望んでいる…苦しみの訳はそこにある…」

 


「ああ…」



結希の瞳から涙が溢れた。

 


結希は、その涙を手で拭った。

 



人が考えて動くとき、未来が変わる。

 


結希は、自らの苦しみの訳を知った。

 



「人の意思が、未来を創造するのだ…」

 


「神が創造するのでは無い…」



「神は見ているだけだ、共にあるのだ…」



真魚が、結希にそう言った。

 



「ああ…」



結希が見た生命の渦。

 



完全なる調和がそこに存在した。

 


神は共にある。

 


結希はその事実に触れていた。

 



「あなたにしか…出来ないことよ…」



それだけは、分かっていた。




結希が見た世界。

 


そこに答えは存在した。




「私は…見てみたい!」

 



結希の心の震えは、止まることがなかった。




挿絵(By みてみん)








続く…






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ