空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その十八
夕日が、島の向こうに沈んで行く。
砂浜で燃える薪の向こうに、それが見える。
海の色と炎の色。
それが、変化していく。
止まることは無い。
それが、この世の理だからだ。
「今日も…あるのか…」
その島に見えた光。
弦が、その真魚の言葉に惹かれた。
「今日も…?」
弦はその事を、不思議に感じている。
「お主ら…何かしでかしたのか…」
嵐が、二人を見て言った。
もう帰る時間だというのに、二人が動こうとしない。
「修行を抜け出して来たんだ…」
「今頃、かんかんに怒っているよ…」
弦がうつむきながら言った。
千潮も同じ様であった。
「それは、仕方ないな…」
真魚がつぶやき、廻りの気配を伺った。
「いるのだろ、前鬼、後鬼!」
真魚が言った。
うひゃひゃひゃ~
下品な笑い声。
「二人がおったのでな、少し遠慮しておった…」
後鬼が姿を見せた。
「そういうことで…」
前鬼も一緒であった。
「!」
二人の姿を見て、弦と千潮が驚いている。
見かけは人に近いが、何かが違う。
「前鬼と後鬼だ」
真魚が二人に紹介した。
「うちが後鬼で、こっちが前鬼じゃ…」
後鬼がふたりに向き合った。
額の角、顔の色…
弦がそれに気付いた。
「鬼…?」
「そうじゃ、儂らは吉野の鬼じゃ…」
弦の問いに、前鬼が答えた。
「本当に…いたの…」
千潮が、小さい目をまん丸に開けて、驚いている。
だが、二人に畏れている様子は無い。
それは、真魚がいるからだ。
嵐の存在を知ったからだ。
全てを受け入れる。
二人の心は、それをためらわなかった。
「それで、真魚殿…光のことじゃが…」
前鬼が話を切り出した。
「どうやら…海賊共が、船で何かを捜しておった様じゃ…」
「か、海賊…!!!」
弦が驚いている。
「誰ぞが、鰐に襲われたのか…」
子犬の嵐がたき火の側で寝転んでいる。
「なるほど…」
真魚には何か見えたようだ。
「真魚殿はその鰐の姿を…」
「かなりの大物であったぞ…」
嵐がそう言って、悔しがっている。
その鰐を食うことしか、考えていないようだ。
「これを…」
後鬼が懐から何かを出した。
「これは…」
七色に輝く、勾玉であった。
首に下げられるよう、紐が結ばれている。
「鰐に襲われた者が、うちに託したものです…」
「死んだのか…」
真魚が勾玉を見て言った。
後鬼は、黙って頷いた。
「これも何かの縁じゃと、島に埋葬しました…」
「今もこうして、捜しておるところを見ると…」
後鬼が、島の光を見ていた。
「頭か…」
後鬼と、真魚の考えは同じであった。
「ひょっとして…これを捜しているのか…」
真魚はそう考えた。
「おそらく…」
前鬼がそう言った。
「これに、何か意味があるのか…」
真魚が、手の平で情報を読み取る。
思考に心象が浮かび上がる。
「なるほど…」
「これが見つかるまでは、捜索を止めぬか…」
真魚が笑っていた。
「またか…」
嵐が呆れていた。
「全く…」
「お主は、どこまで首を突っ込めば、気が済むのだ…」
「まあ…言っても無駄か…」
嵐が、そう言って立ち上がった。
「その前に…前鬼と後鬼に頼みがある…」
真魚が、弦と千潮のことを気にしていた。
「おや、これは…?」
頼み事はいつものことだが、珍しい。
まだ何も、起こってはいない。
真魚に耳打ちされた。
「なるほど…爺さんには、あとでゆっくりな…」
後鬼が、真魚の策を聞いて笑みを浮かべた。
「では、行くぞ!…で、お主ら名は…」
「俺が弦で、こっちが千潮です」
弦が後鬼に説明する。
「でも、行くって…どこに…」
千潮が不思議に感じていた。
「お主らの寺に決まっておろうが…」
後鬼が、二人を見て笑った。
「お主らは普段通りで良いぞ…」
「でも、俺たち…」
寺に帰れば、何らかの仕打ちが待っている。
「分かっておる…だから、うちらがついて行くのじゃ…」
後鬼が、二人の背中を押した。
真魚が笑っている。
二人が真魚を見て、仕方なく歩き始めた。
「任せておけ…悪いようにはせぬ」
後鬼が二人にそう言った。
その頃には、星が耀き始めていた。
続く…