空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その十五
弦と千潮が、砂浜を走ってきた。
怪我をした九を見つけた。
「良く見ると、可愛い顔しているのね」
千潮が九を見て微笑んだ。
「考えて見れば、こんなに近くで見るのは初めてだな…」
弦も漁をしている九しか、見たことはなかった。
那海が二人の様子を見て言った。
「弦と千潮って変わったね…」
「千潮は変わったけど…俺は…」
「弦も変わったわよ!」
「これは、どうも、ごちそうさま」
譲り合う二人に、見ていた那海が照れた。
その言葉で、二人の顔が朱くなった。
「人と動物の魂って、どう違うのかな…」
突然、弦が話をすり替えた。
照れ隠しなのか、九の怪我からそう思ったか…
それは、分からない。
「ほら、難しいことを考えている」
那海が、弦の言葉を茶化している。
「生命の量と言うことになるな…」
真魚が、その質問に答えた。
「砂粒一つが草だとしたら、手の平一杯の砂が人だ」
真魚は砂を手で掬って見せた。
「神はこの砂浜全部だ…」
事実とは違う。
だが、真魚は皆にわかる様にそう説明した。
「え~これが全部…」
砂浜を見渡して、那海は驚いていた。
「こんなものでは無いぞ…」
嵐がつぶやいた。
「そうなの?」
那海が真魚を見た。
「まあ、そうだな…」
真魚が、笑っている。
「それじゃぁ、手の平の砂が人だとしたら…」
「人の魂は…神の一部ってこと…」
弦がその事に気がついた。
「そう言うことになるな…」
真魚が、弦の変化を受け入れていた。
「ふ~ん」」
「こうやって例えると、不思議と分かったような気がする…」
那海が砂を手の平で滑らせた。
ちぃりぃりぃ~ん
突然、真魚の鈴が鳴った。
「どうやら、当たりのようだな…」
真魚の考えが、正解だった合図だ。
ちぃりちぃり~ん
二度目が鳴った。
今度は少し音が違う。
「これは…」
真魚が考えている。
「珍しいのう…何の合図じゃ?」
嵐が鈴の音を気にしていた。
二回目が鳴ることはほとんど無い。
「何かが迫っている…」
真魚が、そう言って意識を広げた。
「どういうこと…」
那海が緊張している。
「嵐!」
真魚が叫んだと同時に、嵐が霊力を解放した。
その霊力が大気を押し、砂を巻き上げる。
「何なの!」
那海は、砂煙から目を守っていた。
その中から現れた、嵐の姿に驚いた。
神々しい光を放つ、金と銀の縞模様。
那海は、その姿を初めて見る。
「あっちだ!」
真魚が飛び乗ると、嵐の姿が消えた。
「あれって…」
那海が口を開けたままだ。
「嵐の本当の姿…」
千潮が笑ってそう言った。
「本当に神様だったんだ…」
この姿を見るまでは、誰でもそう思うだろう。
子犬が神だとは誰も思わない。
だが、これで那海も疑うことはない。
「でも、あっちは…漁をしているはず…」
真魚と嵐の残した波動。
その方向が、那海は気になっていた。
続く…