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空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その十






翌朝、陽が昇る前に真魚は目覚めた。

 


空がほんのりと色づいている。

 


目が覚めたのには理由があった。

 


足音がしたからだ。

 


だが、その足音の主も同時に真魚は感じていた。

 


千潮であった。

 


千潮がこっそりと何かを置いて、去って言った。




挿絵(By みてみん)





竹で編んだ籠の中に、芋と蕗などの山菜が入っている。



陽が昇る前から採りに行ったのであろう。



命の波動が、そう言っている。



それは、千潮の心遣いでもあった。




「これは、ありがたいな、嵐」

 


嵐も寝たふりをしているが、起きていたようだ。

 



「飯か…」



嵐もそのことに、気付いているはずだ。

 



「鍋があればよいのだが…」

 


真魚が小屋の中を捜して見たが、それらしきものはなかった。



塩を煮る器を、使うわけにもいかない。

 



「魚があればなぁ…」

 


嵐が昨日の魚の味を思い出していた。

 



「仕方ない奴だ…」

 


真魚がそう言って立ち上がり、海に向かっていった。

 



いつの間にか、例の棒を肩に担いでいた。

 


波打ち際で、海を見ている。

 


波の中を泳ぐ魚が、うっすらと見えている。


 


ぱしぃぃぃん!

 



突然、真魚が水面に、棒をたたきつけた。




稲妻の様な衝撃が、水を切り裂いた。

 



しばらくすると…

 


ぷかり、ぷかりと魚が次々に水面に浮いてきた。

 



死んでいるのでは無い。

 


衝撃で気絶しているだけだ。

 



ほとんどが鰺か鰯であった。

 



真魚は膝まで海に入り、手頃な魚を数匹掴み、浜に投げた。

 



ぴくっ、ぴくっ

 



その刺激で魚が、動き始めた。

 



水面の魚は身体を震わすと、息を吹き返し、海へ帰っていった。

 



「なかなかやるではないか」

 


いつの間にか、子犬の嵐が側に立っていた。

 



「これで、朝飯にありつける…」

 


嵐は喜んでいた。

 



「!」

 


その時…



真魚が何かに気付いた。

 


何かが浮いていた。

 



「おい!真魚!」

 


嵐が止める間もなく、真魚が海に入っていった。

 



「嵐!」

 


沖で真魚が叫んだ。




「仕方ない奴だ…」

 



嵐は半ば呆れながら、霊力を解放した。

 



次の瞬間には、真魚の上にいた。

 



「直ぐに、波打ち際まで運んでくれ!」

 



「これは!」

 


嵐が真魚の考えを理解し、それを咥えて飛んだ。

 



傷だらけの入鹿魚の九であった。

 



「大丈夫なのか…?」

 


嵐が心配している。

 



「生きてはいるが…危険だ…」

 


真魚が手を当てて九を看ている。

 



「この傷は…どうして…」


 

入鹿魚は知能が高い。


 

泳ぐのも早い。

 


鯱のような天敵もいる。



だが、そうそう傷つけられるような、生き物では無い。

 



「九は人に慣れているからな…」

 


嵐は既に子犬の姿に戻っていた。

 



「後鬼の力を借りるか…な」

 


真魚が誰かに話すように、語尾の調子を上げた。

 



うひゃひゃひゃひゃ~

 


下品な笑い声が後ろからした。

 



「来ておったのか…奴ら…」

 


嵐が、目も向けずつぶやいた。




「今日は、うちの勝ちですな!」

 


後鬼が、勝ち誇ったように跳んできた。

 



「緊急事態だ…これぐらいで勘弁してやる」

 


前鬼が後を追って現れた。

 



「刀傷ですな…」

 


後鬼は、一目でその傷を見抜いた。

 



「すまぬ、知り合いの友なのだ…」

 


真魚は後鬼に事情を話した。

 



「ほに、入鹿魚が、友ですか…」

 


後鬼が微笑みながら、理水をその傷にかけた。

 



傷口が金色に輝いた。

 


生命の力が蘇る。

 


自らの力で、自らの傷を癒やしていく。

 


きゅう

 


九が鳴いた。



畏れている様子は無い。



むしろ、受け入れているようであった。 




「おや、お主良く見るとかわいいのう…」

 


後鬼がその声に答えた。

 



「これで、大丈夫じゃ…」

 


後鬼は傷の上に手を置いて言った。

 



「食うか?」

 


真魚は、先ほど獲った鰺を、九の鼻先につけた。

 


きゅう

 


九が口を開けた。

 


真魚は、魚を口の中に入れた。

 


「食べることが出来れば、心配ない…」

 


真魚が九の頭を撫でた。

 



「それは、俺の朝飯…」

 


嵐は不満げであった。

 



「仕方ない…この借りは聡真に返してもらおう…」

 


皆に聞こえるように嵐が言った。

 



「それがいい…」

 


真魚が笑っていた。

 



「まあ、欲の深い神様だこと…」

 


後鬼が嵐を窘めた。

 



「うるさいわ!」

 


浜に、潮風が吹き始めていた。





挿絵(By みてみん)





続く…







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